「剣を構えて……始め!」
剣術の教諭、速水の掛け声と同時に、剣が激しく弾き合う音が青空のもと響かせた。
速水は一人一人の動作を見、激を飛ばす。
「田辺、脇を締めろ。斎藤、踏み込みが甘い」
今もなお混迷している秩序のなか、銃刀法違反は塵となり、自分の身は自分で守ることが必要とされた。
そして、武器の氾濫がおきた。大都市におけるスラム化。麻薬所持の多発。
これらをおさめるには、警察の手にはおさまらなくなるのは当然のことであった。
そんななか、神崎神によるガーディアンが組織された。
目には目を歯には歯を、武装組織であるガーディアンは厳しい訓練、試験を合格できた者だけが、武器所持を認められ、A級以上の犯罪者の殺傷をも許されていた。
魁達の特進クラスはガーディアン見習いのクラスである。
つまり、戦う運命に立ったクラスなのだ。
また戦う者だけでなく医療にかかわるヒーラーの育成も同時におこなわれている。
速水は生徒達に厳しく叱りつけていく。
「……なっていない。これでは、ただの悪ガキの喧嘩も収めることができない。……少なくとも新堂くらいは必要だ」
皆の視線が息も切らしていない燐に集まった。
「もっと彼女を見習うように。……特に水澤。反応が遅すぎるし、空回りしすぎだ」
すでに肩で息をしている魁に失笑が起こる。
構わず、速水は魁のばさばさの頭を本人にしては軽く引っ張った。
「こんなに髪をばさばさにして。長い髪は戦いに不利になる。伸ばすなら最低、新堂を越えてからにしろ。それに……」
速水はじろりと魁の黒眼鏡を睨みつけた。
「こんな眼鏡して太刀筋が見えるわけがない。取ってからやれ」
魁から無理矢理黒眼鏡をとろうと手をかけるが、外れない。
慌てて魁は速水から離れようとするができなかった。
「は、速水先生。僕の目は太陽の光に弱いんです。はずしたら最悪、失明するので、」
離してー。
「だったら、なおさら早く腕を上げないと、早死にするぞ」
速水の言葉にクラス中が縮こまった。
速水は魁の腕を掴みあげ、校舎のなかに引きずった。
「今からでも、違うところに行ったほうがいい」
あまりの仕打に生徒達がざわめいた。
「ちょっと待って下さい、先生! そんなの酷すぎます! 」
燐がはっきりと言い放った。
「魁、……水澤君はちゃんと特進の試験に合格しました。このクラスにいる資格はあります」
ぎりぎりだったけど。
「あと、彼の眼鏡はきちんと保健の先生から着用許可を頂いてます。失明したら先生が責任をとってくれるんですか? 」
剣術でトップの成績を収めている燐は、一般性とのような学校から支給される剣ではなく、自分の愛刀の所持を認められている。
つまり燐はそれだけ期待され、信頼されているのだ。
そんな燐の言葉に速水は眉をしかめた。
「……本当に許可はあるんだろうな?」
こくこくこく。
魁が高速でうなづくのを見て、忌々しく毒付いた。
「分かった。ただしお前は補習を課す。今のままではついていけない。あとその髪はなんとかしてこい」
放課後に来るように、と言い渡し。
問題はすんだとばかりに生徒達に告げた。
「では、今から試合を再開する。ペアを組め」
よろよろと生徒の列に戻ってきた魁に燐は肩を叩いた。
「お疲れ」
「あはは。助けてくれてありがと」
当然のことよ。
燐は笑って自分の場所に戻った。
こういう時
僕はとても悲しくなる。どうして、君は笑うのだろう。
悪意じゃない。憐憫でもない。
分かるからこそイタイ。
こういう時
僕は自分の戒めが憎くなる。
本当なら、僕は…
君より強いのに。
そう思う自分が、嫌で、嫌で、嫌で仕方がない。
こんな感情、初めて知った。
苦い。