均等に設置された灯りによって視界は白くなったり暗くなった。
不思議な陰影は速水の広い肩の上を踊る。
ただ、彼は言わなかったことを心の中で言葉に為していた。
―最初は、そう―魁の態度が気にかかった。
しかし―
夕方にみた少年の剣舞を目に蘇えさせる。
―あの、動き。意識しているのかいないのか、一つ一つの動きの癖が速水の中にある英雄のものに酷似していた。
胸がチリチリする。
これは経験上―何かに対する警戒を呼び起こさせるものであった。
―兄が死んでしまった。
その時の少年は消えてしまいそうで―それは英雄の不安定さを思い起こさせるもので。
頭で警鐘がなった。
この者に近付くな。
この者に構うな。
もし、そうすれば―
ドロリ何かがと心の奥底から染み出してくる
もう何年も前に封印したその気持ち。
お前は、この者を傷付ける。
速水はいつのまにか立ち止まっていた。
灯りの元でもなく、闇の元でもなく。
淡く淡く仄かな光の元。
中途半端な位置に。
喉から出た
言葉は風も運べないほど微かなものだった。
「 っ」
拳を握る。白くなる。
唇を噛む。白くなる。
目を瞑る。熱くなる。
だからこそだった。
自分の、英雄、いや神崎に対するこの醜い気持ちを整理するためだった。
水澤のことを思って?
そんなこと考えなかった。
利用、だった。
親切な、良い先生の面をして、その仮面の下では自分のことしか考えていない。
それでも乗り越えたかった。
それでも振り切りたかった。
それでも断ち切りたかった。
友に、対するこの醜い気持ちを。
「…教師失格だな。」
自嘲は風に乗った
『ケン』
神崎の声。
自分にはない人を安心させる柔らかな声。
『僕は―行くよ』
それが最後の言葉だった。
もっとも、それが失踪を意味するのだとは思いもよらなかったことなのだが。
「『…そうか。』」
速水は呟いた。
過去の言葉を。
「『早く、帰ってこいよ。』」
仕事は山ほどあるんだからな。
一筋の冷たい風が速水を追い越した。
まだ、英雄は帰ってこない。
英雄がいなくとも自分の時間は進んでゆく。
無慈悲なほどに。
しかし、
しかし、
先ほど、淡く頬を緩め、でも眉を堅くした千里の表情。
それはあいつを−神崎を思い出す時の顔。
しかし、俺たちはまだ、過去の鎖に縛られている。