章・語らぬは己がの強さか弱さか

01.譲れないもの


 



 魁はリサーチャークラスで使ったCPU室からでた。このクラスはほとんど先生がいない。

 ジョーカーのキツイ一言が頭を巡った。
 そして、静流の声も……

 この授業が始まるまえだった。静流が息をきらして走ってきたのだ。
《魁君、燐さんを許してくれませんか?》
 いつもは穏やかな顔がさすがにこわばっていた。
《燐さんはいじっぱりなのでいいませんが、それはそれは反省しているんです。》
 あんなに落ち込んでいる燐さんは久々ですわ。友達として見過ごせないんです。

 にっこりと花が咲く。
《もちろん、魁君もです。》
 目をみはる魁に彼女は笑い、ピョコンと頭を下げた。
《ごめんなさい。あなたか嫌がっていたのに、燐さんを止めなかったわ。だから、私も…ごめんなさい。》
 こんな私のお友達でいてくれますか?

 魁は消えそうな声で答えた。
 それを聞いて静流は、
 燐と仲直りをしてくださいね。ッと念を押した。すぐとは言わない。
 でも、確にある、近い未来に。

 彼女は、強く咲く花だ。

 明聡な彼女を魁は嫌いにはなれない。
 そして、いろいろ頭が上がらなくなりそうな予感。

 でも、悪くない。
 魁は思い出して、少し笑った。
 こんなことも、生まれて初めてだ。


*


 まったく、もう!

 放課後、廊下を燐は肩をいからして歩いた。歩いているとは思えない早さである。
 彼女が怒っている理由は少し前に遡る。そう、選択クラスが終った後のことだ。
《あ、燐さん》
 親友が近寄ってきたとき、嫌な感じがした。
 こう、なんというか静流は事実おっとりしているところがあるがその実、かなり抜け目がないところがある。
 その時の静流がちょうど目の前にいる。にこにこと笑い、花が飛んでいそうだ。
《私、魁君と仲直りしましたからー》
 爆弾発言は燐にあたり、爆発した。
 謝ったら快く許してくれました。お友達関係復活です!うふふ。
 目の前が暗くなった。
 しかも静流はそれだけいうとさっさと教室に戻っていった。

 私だって、私だって!
 仲直りしたいのにー!!
 裏切り者ーー!!!!


 HRの時、
 静流と魁が教室で話をしていたのだから本当に仲直りをしたのだろう。

 わ、私一人ぼっちだ…。
 仲良くお喋りをしていた二人は本当にたのしそうで。

 ………魁の、馬鹿。
 ばかばか、ばっっっかぁ!!!!

 燐はズンズン歩いて、とうとう違う学科の棟まで来てしまった。
 工学系クラス、エレクトロクラスの棟だった。エレクトロとはマギナを利用した機械を作る学科である。
 ‘杖’や燐の持つマギナを利用できるフェンリルなどの剣なども作っている。いまでは杖などは本当に杖の形をしているのはかなりスペックの高い上等なものだけだ。その形は指輪だったりネックレスだったり、アクセサリーの形をしている。
 事実、燐の杖は中指にはまっている指輪だ。
 マギナ開発とエレクトロは切っても切れない関係なのだ。
 たしか、いまはロボット創作をしていたはずだ。秋にあるルトベキア学園の文化祭で行われる、マギナロボのトーナメント試合は名物になっている。
燐も楽しみにしている。
 ……ちょっと覗いていこうかな。
 むしゃくしゃしている気持ちをスッキリしたい。
 人の倍はある巨体が滑るように動く瞬間は見る者を圧倒させる。
 燐はラボに足を向けた。

 ラボに着いた燐はそっと中を覗いた。

「うっわぁ」
 ロボットが十台以上が立ち並ぶ光景は壮観だった。
 若きエレクトロ達が時間を惜しんで動作チェックや配線を繋いでいたり、実際、動かしているものもあった。
「すごい……」
 言葉を失う燐。
 そして誰かに話を聞こうとした、その瞬間。

 ジりりりりりりりり!!!
 ラボ中、いや学園中に警報が鳴り響いた。