章・語らぬは己がの強さか弱さか

03.嵐の到来


 

 ジリリリリリリリリ!!!
 突然の警報。
 魁は顔をあげた。

 一体、なんなんだ?
 こんな事は初めてだ。……なんか、こんなフレーズしかいってないな、自分。
 教室にいる生徒たちもざわめいた。
 一緒にいた静流も緊張した面持ちでこちらを見た。

 事情を知ろうと、放送を待った。

 が、突然。耳に付けていたカフス、元は伝鈴だったものが作動した。
 ジョーカーからだ。
 魁は隣にいる静流を横目でみるがどうやら気付かれていない。
 魁は伝鈴に耳を傾けた。
《ジン!えらいこっちゃ。》
 口に出さなくても、口のなかで喋っても伝鈴は相手に声を届ける。
 本当は思念をも伝えるのだが、まだ魁にはできなかった。
《一体、どうした?こっちは今大変なんだ。》
 用事があるなら後にしてくれ。
《ちゃう、そっちの事や》
 だからなんで、リアルタイムでわかるんだよ。
《エレクトロにある、戦闘ロボットどもが暴走しよった。》
《へー。…それって大変なのか?》
 魁はイマイチよく理解していなかった。戦闘ロボットを殆どみたことがない。
 あきれた声が頭に響き渡った。
《ドアホー!!人間の何倍もある、対戦闘機用のロボが暴れとんねん!マギナ防御だってしてんねんで!?》
 あー頭がキンキンする。
《わかったよ。ようは、エレクトロ棟に近付かなかったら良いんだろ?》
《ちゃう》
 は!?
 ジョーカーの次に発せられた言葉に魁は耳を疑った。
《現場におるんや、リンリンがーーーー!!!》

 っどくん

《な、に言ってんだ?》
 燐がエレクトロに行くはずない。学科が違う。
 苦味を堪えた声が届く。
《これ、見てみぃ。警報がなった直後の監視カメラの映像や》
 目の前に音がない映像が流れた。

 ラボだ。警報に驚いた生徒達がざわめいている。そのなかに、

 ツインテールの少女が、いた。

 っどくん

 突然、ラボの、燐の向かいにある壁が壊れ、

 関を切ったかの様に溢れ出る、ロボット群…

 今、なんて、言った?
 対戦闘機、軍事ロボ?

 ……燐は何処にいる?


 映像の続き
 慌てて目を戻す。
 幸い、静流には気付かれていない。
 もっともこれは伝鈴を付けている人間、魁にしか見えない。

 溢れ出たロボ達は次々にラボを破壊していく。
 そのなかで、

 燐は

 果敢に

 フェンリルを振るっていた。

 っどくん!

 燐の体勢が崩れる。

「燐!」
「魁さん?どう……」
 みなまで言わせずに、魁は教室から走り出た。
「静流はここにいて!」
「魁君!?」
「燐を呼んでくる!」
 静流の呼び止める声を振りきって、魁は全速でエレクトロに向かった。
《ジョーカー!》
 その呼びかけに足にかせた“重り”がなくなる。
 本来の素早さをとりもどした魁はまさに駿足でエレクトロに向かった。
 耳もとでは今も尚、状況を伝える。
《そのロボットの名はガルムβ機や、その数、35。》
 その速さのために角を曲がりきれないと判断した魁は強く踏み込み、壁を蹴って着地と同時に駆け出す。
《設計図を送るで。》
 機密情報をこの短時間でさらりとだした。
「……弱点は!?」
《背中にあるマギナ供給源とちながったパイプや》
 それさえ切ってもたらすぐ動かんようになる。
 実験段階にあったため、パイプは覆われずに今まできたらしい。
 もう少しでエレクトロ棟。
 が、目の前にガルムがあらわれた。



 魁の三倍以上大きい。
 土台は戦車の様なベルト。上には武骨なそのフォルム。両脇には長い腕の様なもの。その中央には、ビーム砲。
 一眼レンズが魁を写し出す。
「くっ」
 すかさず振り下ろされた鉄槌。
 魁はとっさに床に転がり、ガルムの後ろに走る。
 制服の内ポケットから、手の甲に白い双翼の紋章が描かれた黒い手袋をはめる。
「邪魔だ」
 轟っと唸りをあげて戻ってくる鉄槌に魁は冷ややかに呟いた。
 瞬く間に出来上がる錬成陣。それは模様が見えないほどの緻密さ。
『開・拒絶する力』
 光と共に魁の目の前に現れた円陣は吹きとばさんと来た鉄槌に直撃。
 振り子の原理で加速した鉄槌と防御陣は凄まじい拮抗を見せる。

 良し、今の内にパイプを!
 顔を上げ、遥か上にある強固なパイプを見る、が。
 ビキ。

 防御陣に瞬く間もなくクモの巣の様なヒビか走る。

 んなアホな!

 さっきの陣は自分があの人に教えてもらったものだ。
 そうそう壊れるものではない。

 魁はバランスを崩す。
 二つの鉄槌が魁を屑にせんと、次々に襲いかかる。
 それを巧みにかわし、魁はもう一度錬成しようとするが、マギナが集まりにくい。
「…?」
 おかしい。
《アホー!!眼鏡や、眼鏡!不透明度下げー!》

 監視カメラからの声。
 あぁ。
 魁はすぐさま眼鏡の横にある小さなダイヤルを回した。


 ズン


 何が、起こったのだろう。
 全てを潰し、かみくださんと作られた、魔犬の名を授けられたガルムの動きが止まる。
 ブンっ
 魁の手に光の刃ができる。

 力ある言葉、なしに。

 魁が顔を、もう一度あげる。
 口にはヒニルな笑みを。
 手には鋭利な殺戮者を。
 ……目には全てを手にいれる冷徹な意思を。

 魁は薄くなった黒眼鏡から瞳を見せる、否、魅せる。

 それだけで魁はジンになった。

「さっさと踊って」
 とっとと潰れろ。
「もうおもちゃで遊ぶ年頃じゃないんでね」
 魁は飛んだ。