章・語らぬは己がの強さか弱さか

01.譲れないもの


 

 辛うじて、氷の上を歩くように不安定な戦いが進む。
 しかし、ガルムの方も徐々に速度を上げてきている。

 轟っ
 轟っ

 たった一人の少女に対し、ガルムは6台。
 速攻で倒したのが3台。
 戦いが開始され、5分も経たないが、
 もう、燐の体力精神力は限界だ。
 マギナの精度が落ちてきて、要の突風が一撃では聞かなくなっていた。

 燐は死を感じた。

 やだな。
 やだな。
 だって。
 私は。

 まだ、謝ってない!!

 気弱な少年の顔が思い出される。
 こんなことになるなら、さっさと意地張らないで謝っておけば良かった。
 霞がかった頭に鋭い声が響いた。

「新堂!後ろだ!」
 時森先輩の声、まだ、逃げてなかったのか!
 後ろを振り向くと、先ほど倒したガルムがこちらを向いていた。

 その、胸にある砲口に光が灯っている。

 っっっっっっっっっっっっ!

 ぞわっとする間もなく無慈悲な光の弾丸が燐を襲った。







 死んではいない。
 燐は呆然と前を見た。閃光に包まれたというのに、死んでいない。腕が、足が、歯が、ガタガタと鳴っている。
 男が前に立っていた。
 背が高く、髪は襟足で綺麗に切られている。

「相良!北條!!遅いぞ!」
 豊の抗議の声にこの血と硝煙にまみれた空間を清めるような声。
「すまない。行く手を遮られた。」
 そして、この理不尽な状況を打破するような声。
「うっせぇ、来てやっただけでも有り難く思いやがれ!」
 この馬鹿!
 すかさず相棒は頭を拳で殴った。

「ぁ、ぁ!」
 声を出すのも立ち上がることさえままならない燐に悠は振り返り、安心させるように微笑んだ。
「もう、大丈夫だ」
 よく頑張ってくれたね。
 雅人は燐の頭を容赦なく撫で繰りまわした。
「あとは、俺らに遊ばせろ」
 嬢ちゃんは休憩な?

 彼らは6体のガルムに臆することなく前に進み出る。

「まったく。せっかくのオフ日だったのに良くも邪魔してくれたね?」
「はん!オモチャごときが俺の前に立ち塞がッてんじゃネェよ」

 合図もなく、二人は同時に剣を掲げる。
 無謀だ。
 彼らを見ていないものは必ずそう言うだろう。
 しかし一度彼らを見たならば、そうは思わない。
 イヤ、思わせないほどの存在感。

「ここは無頼者が来るところではない」
「ここはてめぇらの遊び場じゃねえ」

「「地に這い懺悔しろ、ルトベキアの名の下に!!」」

 英雄の再来と呼ばれる二人が嗤い、破壊の葬送曲が奏でられる。


*


 っすごい。

 呆然と彼らに魅入る。
 彼らは圧倒的な強さを誇っていた。
 燐のマギナではビクともしなかった装甲が易々と斬られていく。
 二人のコンビネーションも抜群だ。
 精密な悠。豪快な雅人。
 相反する二人はされどお互いを高め合っていた。
 すると後ろから肩を叩かれた。
「ひゃい!?」
「大丈夫ですか?」
 知的な女性が後ろに立っていた。佐竹桐子だ。
「あら、あなたなの?……女の子なのにこんなに怪我をして」
 大きな怪我はないものの燐は全身ボロボロだった。
 擦り傷切り傷打撲…あぁ、お風呂が辛い。
 だが、未来のことを考えられることに安堵した。
「大丈夫ですか?今、なおします」
 切り傷だけでもなおしましょう。
 そう言い、治療を始めた。