辛うじて、氷の上を歩くように不安定な戦いが進む。
しかし、ガルムの方も徐々に速度を上げてきている。
轟っ
轟っ
たった一人の少女に対し、ガルムは6台。
速攻で倒したのが3台。
戦いが開始され、5分も経たないが、
もう、燐の体力精神力は限界だ。
マギナの精度が落ちてきて、要の突風が一撃では聞かなくなっていた。
燐は死を感じた。
やだな。
やだな。
だって。
私は。
まだ、謝ってない!!
気弱な少年の顔が思い出される。
こんなことになるなら、さっさと意地張らないで謝っておけば良かった。
霞がかった頭に鋭い声が響いた。
「新堂!後ろだ!」
時森先輩の声、まだ、逃げてなかったのか!
後ろを振り向くと、先ほど倒したガルムがこちらを向いていた。
その、胸にある砲口に光が灯っている。
っっっっっっっっっっっっ!
ぞわっとする間もなく無慈悲な光の弾丸が燐を襲った。
死んではいない。
燐は呆然と前を見た。閃光に包まれたというのに、死んでいない。腕が、足が、歯が、ガタガタと鳴っている。
男が前に立っていた。
背が高く、髪は襟足で綺麗に切られている。
「相良!北條!!遅いぞ!」
豊の抗議の声にこの血と硝煙にまみれた空間を清めるような声。
「すまない。行く手を遮られた。」
そして、この理不尽な状況を打破するような声。
「うっせぇ、来てやっただけでも有り難く思いやがれ!」
この馬鹿!
すかさず相棒は頭を拳で殴った。
「ぁ、ぁ!」
声を出すのも立ち上がることさえままならない燐に悠は振り返り、安心させるように微笑んだ。
「もう、大丈夫だ」
よく頑張ってくれたね。
雅人は燐の頭を容赦なく撫で繰りまわした。
「あとは、俺らに遊ばせろ」
嬢ちゃんは休憩な?
彼らは6体のガルムに臆することなく前に進み出る。
「まったく。せっかくのオフ日だったのに良くも邪魔してくれたね?」
「はん!オモチャごときが俺の前に立ち塞がッてんじゃネェよ」
合図もなく、二人は同時に剣を掲げる。
無謀だ。
彼らを見ていないものは必ずそう言うだろう。
しかし一度彼らを見たならば、そうは思わない。
イヤ、思わせないほどの存在感。
「ここは無頼者が来るところではない」
「ここはてめぇらの遊び場じゃねえ」
「「地に這い懺悔しろ、ルトベキアの名の下に!!」」
英雄の再来と呼ばれる二人が嗤い、破壊の葬送曲が奏でられる。
*
っすごい。
呆然と彼らに魅入る。
彼らは圧倒的な強さを誇っていた。
燐のマギナではビクともしなかった装甲が易々と斬られていく。
二人のコンビネーションも抜群だ。
精密な悠。豪快な雅人。
相反する二人はされどお互いを高め合っていた。
すると後ろから肩を叩かれた。
「ひゃい!?」
「大丈夫ですか?」
知的な女性が後ろに立っていた。佐竹桐子だ。
「あら、あなたなの?……女の子なのにこんなに怪我をして」
大きな怪我はないものの燐は全身ボロボロだった。
擦り傷切り傷打撲…あぁ、お風呂が辛い。
だが、未来のことを考えられることに安堵した。
「大丈夫ですか?今、なおします」
切り傷だけでもなおしましょう。
そう言い、治療を始めた。