叫び声が聞こえる。
聞こえないけど、感じる?
何もかもが白くて、
その感覚は水に浮かんでいる様。
そのまま消えてしまいそうな私の意識に喚びかける
その声は辛くて悲しくて……怒っていて。
でも、痛くて
でも、温かで
本当に、私を喚び起こす声で。
誰?
貴方は誰?
『 』
聞こえない…
聴こえない…
『 っ!!!』
脳が、揺さぶられる。
でも、あぁ、視界が開けてきた。
聴覚も回復してきた。
貴方の、声が聴きたい。
『 ぃん、燐』
「燐!!」
燐の視界が、思考が再び真っ白になった。
ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!
うえぇぇぇぇぇぇぇ!?
その声に燐は愕然とした。
「魁!?」
一気に目が覚める。
目の前に魁のどアップがあった。
目を覚ました燐に魁は力が抜けたのか、へたれた。
「し、心配かけさせるなって……」
いつもの魁とは違いぶっきらぼうな言い方だった。
思考が回らない。
「な、ん、で?」
魁がここにいるの?
いちゃ悪い?
やはりいつもよりガラが悪い。
「頭」
「へ?」
間抜けな顔をしてしまった。
魁は苦笑して燐に近づいて頭の後ろに手をやる。
「っ!?」
「頭。おもいっきしうちつけたから」
赤面していた燐に、熱でもあるの?
「な、い!」
魁の顔が弱々しく、笑顔になる。
「よかった。……間に合って」
あいつら、ちょっとしつこくて。
え?
「ごめん。燐のせいじゃないから。」
お…僕が未熟なせいだから。
え?
ちょっと待って。
確か自分は、最後の最後であのガルムとかいうロボットの砲撃に・・・・・・・・・・・っ!?
なんで自分は頭を打ち付けただけなんだ?
ゆっくりと、魁が燐の体に倒れ込む。
「 ぁい?」
魁?
なんで、倒れるの?
なんで、背中が濡れてるのぉ?!!
なんで、こんなに血の臭いが?!
なんで、私の手が紅いの?
カイハリンヲカバッテ、クタバッタノサァ!!
悪魔は嗤った。
燐は絶叫した。
一体、何がどうなったんだ?
悠は半乱狂する少女から突如現れた少年を引き剥がし、桐子に押し付けた。少女の焦点は定まっていない。
「おい、全部壊しといたゼ」
力技の得意な相棒、雅人が自分の身長ほどもありそうな大剣を肩に担いで帰ってきた。
「さっきの餓鬼どうなった?」
「桐子君が治療にあたっている。」
先生にも連絡しておいた。
それを聞いた雅人は顎をしゃくった。
聞かれたくない話があるようだ。
悠は混乱する頭を振って雅人のもとに駆け寄った。
肩に手を置かれ、耳に囁かれる。
「一体、何があった?」
それは、一番俺が知りたい。
あるまじきことに、正直、油断していた。
もう戦闘は終ると、侮っていた。
ガルムの砲口が唸ったに気が付いたのと同時にあの少女に押し飛ばされていた。
そこまではいい。
そこからが、問題なんだ。
少女に光の弾丸があたるまさにその瞬間。
「あのガキが、ここに来た」
燐!
少女の名を呼ぶ、悲痛な叫び。
その余韻も覚めぬ間にあの少年は同時にマギナを展開、発動。
目にも止まらぬその速さは悠の調子の良いときに匹敵するほどであった。
少年の放った紫電は弾丸を貫いた。
凄まじい力拮抗が生じた結果、マギナの自然暴発。
ラボが破裂した。
とっさに悠は桐子を、雅人は豊を。
そして、少年は少女をかばったのだった。
「あの子は、何者だ。」
雅人は何が面白いのか、肩を震わせていた。
「雅人?」
何かを呟いた。
「言っただろ?一回」
「は?」
間違いない。
「春に俺の結界を破った奴だ」
頭から血が引いた。
そういえば、ラボは結界を敷いていたのではなかったのか?!
悠は雅人を引き寄せた。
「間違いないか?」
「あんな黒眼鏡かけてる奴はそうそういねぇよ。」
やっと見付けれて嬉しいのだろう。
目が爛々と光っている。しかも少年の実力、いや、才能の高さは確実に本物だ。
「……彼女を守るために無我夢中で、できただけ、火事場の馬鹿力かも知れない」
あまり、イジメるなよ。
「関係ねえな。だったら火事場を作るまでだ」
悠は少年に同情した。
「気に入った人間をイジメる癖、なおしたらどうだ?」
だからもてないんだ。
「イジメてんじゃなくて、可愛がってんの!」
おんなじだろ、それ。
悠は嘆息した。
しかし、彼があの少年と手合わせするときは一緒に行こう。
「ぉおーい! ユウユウにまっさんー! 大丈夫?」
「キーリもぉ!」
外に待機していたリサーチャー、双子のコンビ、米倉明と玲だ。
保健の先生達も駆け付け、桐子達のもとに駆け寄った。
「もう、びっくりだよぉ!」
「いきなりラボが爆発するんだもん!」
双子は声を揃えた。
「「まっさんがきれたのかと思ったよぉ!」」
「まて、永久チビガキシスターズ!俺をなんだと思ってやがる!?」
キャラキャラと笑って続けた。
「「永久単細胞破壊魔ぁ!」」
「もしくは、脳味噌筋肉ぅ!」
「もしくは、戦闘マニアァ!」
満面の笑顔で、
「「あってるでしょー?」」
悠に賛同を求めた。
苦笑いの悠は辛うじて言った。
「敢えて、ノーコメント」
「否定しろ!」
雅人は吠えた。
身長とその話し方から小学生にも間違われる明と玲だが、これでも悠達と同じ四年生であり、リサーチャーとしてトップの成績を修めている。……あまり、初対面の人間には信じて貰えないが。遥か下から双子は悠を見上げた。こうすると兄妹である。
「あのね、」
「ガルムを作ってた研究所をね、捜索するんだって!」
「玲と明、お仕事!」
「忙しくなるの!」
「「だから。」」
明と玲はかなり嬉しそうに笑った。
「これあげる!」
「ユウユウ、びっくり!」
「まっさん、ワクワク!ウズウズ!」
ねーっと言い合わせて悠のモバイルにデータを送った。
「「じゃーねぇ」」
「頑張ってね」
嵐の様に去っていった、双子に手を振った。
悠はすっかり暗くなってしまった空を見上げた。
「ラボ破壊って、やっぱり僕等が報告書を書かなきゃ駄目かな」
「僕等じゃなくて、お前、だけどな」
ゲンコツで頭を殴った音が響いた。