章・語らぬは己がの強さか弱さか

06.その名の波紋


 

少年と言うには老齢で
青年と言うには若輩で
そうであるがゆえに少年と呼ぶべき存在。
そんな少年がガルムを相手に踊っていた。
ガルムの数、10。
それ相当の数を悠も倒しているがそれは相棒とサポートの桐子がいたからであり、さらに言えば総計であり

同時、ではなかった。

同時に10もの武器、ではない。
兵器と戦っているその少年は笑っていた。

ひさびさに遊べたことを喜ぶように
出来の悪いおもちゃを嘲るように

…それはあまりにも圧倒的な強さだった。
そしてあまりにも信じがたいものだった。

喉がひりひりした。
「なんなんだ、こいつは。」

その少年は倒れた黒眼鏡の(確か魁という)少年を避難させ、ガルムに立ち会っていた。立ち向かうのではなく。挑戦者としてではなく。迎え撃つものとして。

その少年は、黒い包帯のような目当てをつけ、三つ編みを揺らし、そしてやはり漆黒のウインドブレーカーを身にまとい、
なによりも目を引きつけるのは、黒い手袋ある。
ただ一点純白を放つ、
双翼のエンブレム。

それは、

かつて『英雄』が好んでつけたものだった。


少年は
あたかも
自分が
『英雄』で
あるかのように。

身を翻す。


双子にもらったデータをみて、英雄の再来達は
画面に釘付けになった。

「こりゃぁ、魁どころの問題じゃねぇな」
雅人は笑みを浮かべなかった。
本気だった。
そして、それは悠も同じだった。
「あぁ」
だん!
強く握りしめた拳が机をふるわせた。
コップからコーヒーが溢れた。
「何処の何奴か知らないが、先輩のマネをしようなんて」
転生しようと許さない。
いつも温厚な光を放つその瞳は冷徹な炎に揺れていた。
「だが、語るだけの強さはある」
「そんな問題じゃないだろ!」
悠は声を荒げた。
いつもそうだ。雅人は思う。
先輩が絡むと悠は冷静でいられなくなる。
崇拝してるからなぁ・・
そして雅人は崇拝をしていない。
先輩、いや英雄は尊敬であり、超えるべきものである。
そこの差が現れていた。

「とりあえず。こいつのことを魁にきくぞ。」
「あぁ」
忌々しげに画面を切った。


「後悔させてやる。」

少年は、己の名を残していった。
監視カメラにわざわざ油性ペンで。

『リトル・エース』

英雄を継ぐ者としてのその名を。