章・問いかけの先は全て無の空に

01.いきなりピンチです。みなさん。



 ありえない。

 燐は呆然と自分と同じ目線の男、いや少年を見た。
 男のクセに三つ編みの少年はにやりと笑っている。なんていやらしい笑みだ。性根が腐っているに違いない。
「なんか。漫画って偉大だ」
本当に静かになってくれた。

 その言葉の非科学さに現実がつかめない。

 いや、まて。手は地面についたまま。
 体が動かない。

「犬に舐められたとでも思ッといて」

 頭にデコピンをくらった。

 イタイ。

 では、夢ではない。リアルな夢ではない。

「じゃ」
 少年は別れの言葉を告げ、走り去っていった。

 燐は、地面に押さえつけられた体を奮い立たせた。側に、本当に側にあったフェンリルを掴む。
 だんだんと怒りが、こう、ふつふつと沸き立ってきて。

 一気に沸点到達!

 拳を固め、剣のマギナを発動させる。無理な陣錬成で周りに火花が散った。もう見えない姿に向かってマギナ発動!
 けたたましい音が空に響き渡り、一斉に鳥の飛び立つ音が不協和音となる。




「ふざけんじゃないわよ!!」

こんの

キス泥棒ぉ!!!

 顔から火が出ているに違いない。生々しく感覚が戻ってきた唇を手の甲でぬぐう。

 やだ。

 どうしよう。最悪だ。





 しかも、あれだ。

 初めてのキス。