02.過去の幻影に魅せられる
魁は燐達に追いつこうとしたが、すぐに立ち止まった。後ろを向いて、淳子を見上げた。じっと、黒眼鏡の奥で灰色の瞳が光り、不思議な色合いになる。
「ジョーカー」
「ん」
「別にお前のこと、信用していないわけじゃないけどさ」
「ん」
魁は言うべきかどうか躊躇った。
自分に言う権利があるのか。
しかし、彼の"相棒"の名を借りている以上、言うべき事は言った方がいいだろう。それでこそ、"相棒"といえるのだから。
「あんまり、思い詰めるなよ」
意外な言葉に、淳子、いやジョーカーはすぐに切り返せなかった。
「お前が悪いんじゃないし。…ぶっちゃけ、兄さんのせいだし。」
ホント、周りが見えない人なんだから。
「速水先生、俺にはかなりいい先生だよ」
ぽんっと肩を叩き、前方に走っていった。ジョーカーはその耳が妙に赤いのを、半ば呆然と見送った。冷たい廊下の真ん中に残されたジョーカーは、口に手を当て、苦笑を隠した。
……み、ミジンコになぐさめられてもた。
空が見たい。
顔をあげる。しかし、見えたのは天井の冷たいコンクリート。閉じ込められた世界。
一瞬、泣きたくなる瞳を叱咤し、無理矢理、享楽をねじ込む。―いつもやっているように。
そして、ワラウ。
道化師に、涙はない。
道化師の名にしがみついたのなら、最後まで、完璧に。
それが、かつて自分にかした誓いゆえに。
しかし、魁の背中を見て。
誇るように、華やかに、心から、
道化師は、微笑う。
――神、アンタの弟、ホンマ、かなわんわ。
首を振り、茶色の毛を指に絡ませる。
完璧に装ったこの姿。
昔の自分と繋げれる者がいたら、それこそ超能力者。
"淳子"は進む。
かつての仲間、六柱が一人、速水の元に。