問いかけの先は全て無の空に

04. "a"



『開・迷える子羊』
『開・追う狼』
 双子が放ったマギナ。
 ジョーカーの後頭部に羊マークが印され―
 玲のもつ【核】がマギナを纏う。
 それは瞬時に黒狼となり、逃げ行く羊―ジョーカーを追い掛ける!
「ギャーーー。食われる!ワイは甘くないでぇ!」
「キリちゃん、あれ欲しい!」
「狐らびゅう!」
「わかったから、捕まえましょう」
 はしゃぎまくる二人を桐子は急かした。

「えーと。あーと。どないしよー」
 黙ればいいのに、ジョーカーはただ喋る。もうクセとかそんな範疇を越えている。
 マークが付けられた。それを目標にあの狼がやってくる。単純だが、マギナに対抗できない身では一番逃げにくい。
 狐は半身を後ろにひねり、
「ロケットパーンチ」
 砲撃した。
 それは丁度後ろにいた狼にあたったが、爆発することなく通り抜けた。瞬時にマギナの固定化を解いたのだ。
「うわ、姑息やー」
「キリちゃん!ロケットパーンチ!ロケットパーンチだよ!わたしここにいてよかったー!」
 思い残すこと無いよ!
 あのリサーチャーの双子だ。
 前から、
「うぅぅ、ええこやなー。趣味もあうしぃ。オ友達になりたいわぁ」
 後ろから、
「レーちゃんもー」
「メーちゃんもー」
 前から、
「じやあ、後でメルするなぁー」
後ろから、
「「うん!」」
「うんじゃないでしょー!!」
と桐子が叫ぶのと狼がジョーカーの首根ッこをがぶりとするのはくしくも同時だった。



『開・素早きは疾風』
『開・赤隼』
 肉体強化を施し、先を行くリトル・エース―呼びたくはない―を追う。奴はその小柄なシルエットからは予想できないほど速い。
『開・錯綜』
指先から、螺旋を描き狙い行く。
ジンは見ること無く、
『開・夢想する燈』
 淡光がジンを一瞬覆う。
 螺旋する衝撃波がジンに直撃し、ジンの体が歪み揺れ薄れる―煙のように。
 煙の後には何も残ってはいなかった。
「きえた!?」
「妙な芸当ばっかすんなよ!」
 おーれーと戦えー!

 やなこった。

 声だけが聞こえる。

 それでは、これにて。再来さん達、今度も見逃してくれ。

「待てよ!」
「お前は、一体誰なんだ!」

 英雄の後継者。
 それ以上でもそれ以下でもないさ。

 そして無声になった。




 勝った。
 双子はそう思った。
 一度くわえたら決して離すことはない必殺の顋。狐は必死にもがいているが外れるはずがない。
「狐さん。捕まえたー」
「うきうき」
 まだ狐は性懲りもなく暴れている。
「無駄だよぉ!」
「レーちゃんが組んだプログラムがそうそう崩れるわけないもんねー」
「みんなにほめられたもんねー」
 そして二人は言ってはいけないことを言ってしまった。

「「第2の城野内 條太郎様って言われたもーん」」

 この一言は、ジョーカーのプライドを呼び起こさせた。
「はぁ?アホ言うなヤ」
 ちょいまて。
 自らの腕を狼の口の中に入れ、なにやら動かす。がくんと糸が切れたように人形から力がぬけた。

「あれ?」
「狐さん?」

 こちらに向かっていた狼が一気に加速して走り出した。
「狼さんー。おいでー」
 玲は走ってくる狼を抱き締めようと両手を広げて待った。
 失神している狐をくわえた狼は主目指して走る。
 走り、走り、走り過ぎた。
 風のごとく。

「あり?」
「えー!?」
 桐子は呆然となった。
「何してるの!?また変なオプション付けたの?餌独り占め機能とか!」
 玲はモバイルから帰ってくるよう指示した。
 だが、帰ってこない。
「帰ってこないよー」
「えー!?」
 それだけではなかった。
 玲と明のモバイルの表示が瞬く間に黒く塗り潰されてゆく。
「えー?」
「ワクチン!」
 しかし投入しようにもまったく操作を受け付けない。闇に塗り潰された画面の中央にシルクハットを被った狐が現れた。
 表示された文字。

【ほな、もっと精進しぃよぉ。】

 カウント3・2・1

 悲鳴も虚しく、モバイルはその全ての機能を停止した。



 結局、皆で狼を探したが、見付かったのは転がったマギナが切れた【核】。狐は当然のごとくいなかった。予備のモバイルで玲明球を発動させるも、嫌がらせ的に全てのマークがレッドになっていた。手分けして探すしかない。
 明と玲はワンワン泣いている。
 一部の回線を切られたのか悠達とは連絡が取れない。しかし、まだ生徒――先生達もだ――が駆け回っているところを見たらまだ見つかっていないらしい。
 桐子は空を仰ぎ見た。
 これは、大変なことになりそう。
 そして頭を下げ、手元を見た。 それは【核】の上に置かれていたもの。

 デザインで【a】が書かれた黒いカード。


 桐子はそれはきっと”リトル・エース”と読むのだと思った。