章・過去が眠る楽都市で踊り狂え

08.恋は下心、愛は真心と言いまして


 
「しかし、君と二人というのはなかなか久しぶりだ」
 魁は思いめぐらし、最初の頃を思い出して吹き出した。
「そうだな。最初の依頼以来じゃないか?この家出娘」
「いやいや、あれはあれでわたしの人生史上に必要だったよ。・・・笑うな」
 いや、ごめん。と手で制止ながら、咳き込んだ。里佳はばつの悪そうな顔でそっぽ向いた。心なしか頬が赤い。あの依頼のことを思い出し、魁は思わず口を手で覆った。
「あの頃はまだ若かった」
「今も十分若いでしょう、お姉さん」
「青かった春だ」
「今は顔が赤いがな」
「あぁ言えばこういう」
「お互い様だ、マァイディアレィディー」
「…………和泉に泣きつこう」
「ごめんなさい。俺が悪かった」
 本気で頭を下げる魁を見下ろし、途中から吹き出した。
「いや、君は本当に面白い」
「こっちは心臓が悲鳴をあげてるっての」
「ふふ。まぁいい。それで?」
「それでって?」
 優雅にコーヒーを飲み、里佳は言い直した。何が入っているのか聞いても教えて貰えないパフェがその横にはある。ついでに、魁は食べたことがあるが、"なんともいえない"味だった。良くも悪くも。
「学園だよ。……どうした、その耳にお好み焼きな顔は」
「耳にたこだ。せめてたこ焼きって言え。なんでみんなソレを聞きたがるのか俺にはわからん」
 こうやって無事に帰ってきた、それでOKにしてほしい。何があったかなんて、一言でいえるものではない。全て言えるものではないし、言ってしまえば、思い出がそれだけに固定されるような気がするのだ。っていうか正直めんどい。
「君が大切だ。でなければ聞かない」
 恥ずかしい台詞をさらりと言ってしまえる里佳に脱帽だ。エンもエンで恥ずかしい台詞を結構言うが、恥ずかしいベクトルが違う。
 ………
「えーっと、普通?」
 …………笑顔なのには変わらないのに、明らかにすごみが増した。
「普通、普通か。変な玩具と踊っているところが話題騒然大好評絶賛上映中が君にとっての普通か。君は本当に……」
「あれについては、ノーコメントでお願いしますっ」
 いやもうほんとにまじでさぁ!!
 最後まで言わさず、魁は机の上で簡易土下座をした。
 そんな魁を実に心配そうに見ているのだが、魁には見えない。まったく、しょうがない、と里佳は呟いた。こんなことで心配しているようではこの年下の友人とは付き合えない。
「……事情は聞かない」
「はい」
「……ただ、"欠席"は許せる。だがこの会議で"欠員"がでるのは許さない」
 静かにそう、告げて、生クリームを一舐めしてから、微笑んだ。さっきのことなど無かったかのように、繰り返した。
「で、学園はどうだ?」
「楽しいよ」
 そうか、と肯く里佳は実際の年齢より大分上に見える。和泉よりも年下だというのに、この落ち着きはどうだろうか。和泉が動のカリスマなら、里佳は静のカリスマを持っていた。冷静沈着の四文字が後ろに見えるようだ。だが、そんなまともな人間は、前々回の会議で女服を送っては来ないのだが。
 和泉さんと最強タッグを組んでるからな……いや、イソラを一緒にして最凶トリオか。
「同年代の子供があんなにいるとは思わなかった。あんなに子供を見たのは初めてだ」
「君は学校に行ったことが無いんだったな」
「あぁ。あ、そうだ。入学式が大変だった……」
 合間に入る里佳の質問がいいのか、はたまた彼自身の友人だからか、近藤やエンに語ったときよりたくさんのことを話していた。
「それにしても、君の髪型はいつから左右非対称になったんだ?」
 里佳が自分の前髪を引っ張った。
「あぁ、これは友達に――」
 あの髪の毛騒動――喧嘩を思い出して、顔をしかめた。
「――あーーーー!!!」
 突然の魁の叫びに、里佳がむせた。
「どうした、君」
「なんて、俺は馬鹿だったんだーーー!」
「それは知っている」
「いやいやいや、そうじゃなくて」
 あーもーあんなに悩むんじゃなかった。と愚痴り始めた魁を里佳はしばらく眺めていた。否定はしないのだな、と無駄に感心しながら。
「で、なんだ」
「この髪の毛、友達に切られたんだ。それで喧嘩になって結構口もきかないってときがあってさ」
 里佳は一瞬瞠目したが、魁に先を促した。
「そのときは相談できるやつがいねーとか思ってたんだが、里佳がいたんだ。そうだ、里佳がいたーーー!!」
 俺の唯一常識領域の友人!!
「それは、怒って良いのか笑った方がいいのか喜んだ方がいいのか、絶妙に微妙だ」
「怒ってくれ!!」
「君はマゾか?」


「ふふ。楽しそうでなによりだ。わたしも学校に行っているが――あれは羊を作るための学校だからな」
「羊?」
「あぁ、質の良い毛を生やしても刈り取られるだけの生き物だ。君たちを見ていると、自宅学習というのも良い道に思えてくるよ」
「人それぞれだと思うけどね……」
 途中から声のトーンが落ちたのが自分でも判った。それに里佳が気づかないわけがなかった。
「どうした。浮かない顔をして」
「……真面目な話してもいいか?」
「わたしでよければ」
 他の人間には言う気にはならないが、このもやもやを吐き出すとしたら彼女が一番だと思えた。
 英雄からも、学園からも、エリュシオンからも遠い彼女の、第三者の意見が欲しかった。
「学園に行く必要があったのかなって思うときもあるんだ」
 その一言に、別段驚くこともない里佳に安心した。パフェを食べる手は止まっている。
「君が学園に行くと決めたのは、兄君の遺言――だったと聞いたが?」
「いや、うん。そうなんだよね。ルトベキアに行こうとした志望理由はそれだよ。ただ、それしかない」
 はーっとため息をついた。
「実はさ、結構経済面がきついんだよね。一年働けていたのが、ほとんどなくなっちゃったわけだし、長期の仕事もはいらないしさ」
「主夫の悩みだな」
 まったくだ。
「エリュシオンのみんなも働いてくれてるけど、働かせるために作った訳じゃないからさ。大人ならともかくチビ達には、楽をさせてあげたいというか、……お金の心配事なんて耳に入って欲しくないというかな」
「気持ちは分かる」
 ありがとう。
 魁は手もちぶさな手で、頭をかいた。
「エリュシオンを作ったのは俺の我が儘だ。でもルトベキアに行こうと思ったのも俺の我が儘なんだ」
 ピンと里佳の片眉が跳ね上がった。
「お兄さんの遺言じゃないのか?」
「本当の兄さんの遺言――最終目的を果たす方法はそれ以外にもあったってこと」
 兄の遺言通り学園に入ろうと意気込んだ魁に、エン達が申し出たのだ。本当にソレでいいのかと。
 ルトベキア学園の生徒にならなくても、あの学園に潜入することはできる。こちらにはエン――"九鬼マドカ"がいるのだ。元理事の一人であり、六柱の一人。彼が名乗りを上げれば、学園に入るのは自由。その助手として魁もおそらく許可されただろう。そして、こちらは物騒な方法になるが、すべき刻が来たときジョーカーに錠破りをして貰えれば、一発勝負だが、結果を同じにできる。もっとも、エンに頼むにしろジョーカーに頼むにしろ、あと何年かは待たなければならないだろう。
 だが、学園に入る必要はない。
「とりあえず、兄さんの遺言を果たすまでの期間、ずっと働いていられるし――俺も強くなれる」
 学園はぬるい。もちろん、魁が大人しくしているからよけいにぬるいのだが、目立つことは禁止(それがエン達が出した条件だった)だ。若干一名に邪魔されている気がする。ってかされてる。エンに文句いっとかないと。
 腕が鈍ったらどうすればいい。自分に課した訓練はあるが、実践に勝るものはない。
「そっちの方が、みなに迷惑がかからなかったんじゃないか、そういうことか?」
「…………椿と喧嘩したのもそれが原因だしな」
「そうだな」
「たださ、そういう道もあったのに、なんで兄さんは俺を学園に行かせたかったのかって考えてもわからない」
 それが分かったら、ここまで迷わなかった。
 里佳はしばらく黙っていた。
「わたしの意見だが、いいか?」
「是非聞きたいな」
「ふむ。まず、わたしは君の兄君が何を考えていたのか、何を目的としているのか、分からない。だから、これは本当に推測だ」
「それでもいいって」
「君は――子供だ。だが、限りなく大人に近い子供だ」
「……そうか?」
 何も出来ないガキだと思ったことはいくらでもあるが、自分を大人だと思ったことはない。
「そうだとも。きみは、同級生のことを、"同年代の子供"と言った。エリュシオンの子供達に"金銭の心配がないように"したいと言った。それは残念ながら、子供の言う言葉ではない。それは、残念かな、大人の言葉だ。君は既に働き、家では家事を担い――大人達と暮らしている。君の周りに子供はいない。あぁ、確かにエリュシオンの子供達がいる。しかしそれは君にとって"保護すべき子供"であり、対等な関係である友ではない。魁、わたしが思うに――君は子供時代を殆ど持っていない。両親――保護者に甘え我が儘を言い、だだをこねた子供時代を。魁、君は子供かいなか、という観点で見ると、少しばかり年上の私から見てかなり異質なのだよ。君の人生が、なるべくして今の君を作ったとしてもだ。君は、大人達を困らせたことがあったか?」
「―――だって、そりゃそうだろ?昔は―妹がいたし、俺はお兄ちゃんだ。俺が妹の面倒をみるのは母さんの手助けになったし、文句を言ってもしょうがないじゃないか。俺自身楽しかったしな。兄さんに育てて貰ってた俺の立場って、急に転がり込んできた居候だし、ガキのときの俺が出来る事っていったら家事しかなかった。みんなにはみんなの都合があって、"戦力"でもない俺が邪魔しちゃ駄目だろ?」
 それは"なかった"と質問に答えるのと同義だった。
「良い子、だったのだな。まぁ、君の気持ちが悪いまでの自己犠牲は今に始まったことではないようだ」
「自己犠牲って」
 そんなたいそうな。
「そう見える一面もあるということだ。兄のため、兄のため、兄のためと自分の人生の大切な青春の一頁どころか一冊を捧げているとな。君の夢はなんだい? ――いや、分かっている。お兄さんの遺言を果たす、だ。だがそれは君に与えられた使命であって、君自身の将来を夢見ていることではない。夢とは到達点が見えないものだ。お兄さんの遺言を果たした後、君はどうする気だ? 君は、おそらくこう答えるだろう。エリュシオンのために、働くと。あぁ、それが素晴らしいことだとは私は思う、がな。ソレは夢ではない。一番実現する現実を予測して言っているだけだ。夢ではない。夢ではないのだよ、子供が見るような"公務員になりたい"と"世界中があっというようなことをしたい"というまったく中身のない、しかし美しく空にあがるシャボン玉ではないのだ」
「いやいやまてまて、公務員て」
「ツッコムところはそこかい?」
「ありすぎて飽和してるんだ」
 なるほど。
「公務員なんて漠然としたモノの一体何を彼らは知っているんだ?安定した収入と産休ぐらいしかなりたい理由項目を聞いたことがないのだが。その仕事の中身はなんだい?事務処理か?検疫か?ただ"なりたい"だけだ。そのただ得られるものを欲してな。ただ口で"公務員になりたいー"といっている堅実にみえる子供のなかに、公務員の仕事に興味がある者が――そもそもその内容を知っている者がどれだけいると言うんだ」
「全国の公務員志望に喧嘩売ったってことだけは言っておく」
 むっつりした魁に、里佳は頷いた。
「……なるほど、なりたかったクチか」
「ってかもう具体的になったら夢じゃなくて目標だし」
「そうだな。だが、それすらも君は持ち合わせていないだろ。エリュシオンのことは兄の夢を維持するための自分の義務と考えているのだから。さて、何のために何を話したか忘れかけているのだが………」
「里佳……お前、後先考えずに言いっぱなしする癖、ちょっと押さえた方がいいぞ」
 兄さんがなんで俺に学園に行けっていったのかなー?って言ったんだよ。
 あぁ、そういえばそうだった。
「君なら処理する頭を持っているからかまわない。……ほらな、君は子供ではない。今までわたしはわざと――本当だ、無礼な言い方をしてきた。君だけでなく君の尊敬する兄君に対してもだ。普通の人間だったら怒るだろうね。少なくとも気分は害する。なのに、君は真面目に聞いている。内心ではどうかしらないが、表情には出ていない。素晴らしいかな、わたしに忠告までくれた。事なかれ主義かい?」
「……基本的には」
 里佳に相談を持ちかけたのは間違いだっただろうか。遠い空が眩しい。
 だが里佳は続け、魁を凍らせた。
「何故、学園での君が聞きたかったか。君が大事な友人で、心配だったのだよ。学業の方ではない、健康であったかではない。そんなもの、君にとっては恐るるに足らないことだ。ただね、君が学園に馴染めたのか、浮いていないかが心配だった。孤独は人を凍らせる。君が君でなくなるのが怖かった」
「なんで――」
「――君は、皆と違うから。人生経験の量はいわずがなだが、意識が違いすぎる。そして、たちが悪いことに、距離を置いているのは君自身だ。同級生を"同年代の子供"という君自身なのだよ」
「…………」
 心当たりはある。おそらく、あの入学式の日、静流を助けることにならなければ自分は本当に一人だったろう。目標はただ一つ、学園にいるのはただの通過点、周りを見る必要はない。ただ自分の知識と技量を磨くことだけを考えていただろう。
 だが――
 里佳は本当に嬉しそうに、笑窪を作った。
「だが、君は友達と"喧嘩"をした。事なかれ主義で逃げることなく、大人の視点でしょうがないと諦めることなく、喧嘩をしたのだよ。実際、髪を切ったのがエリュシオンの子や私だったとしても、君は構わないといい、家で電気も点けずに落ち込むだろうね。だからわたしはそのことに喜ぶよ、魁。喧嘩というものは同じ土俵に立っている者同士にしか出来ないことだ。例えば、わたしの知り合いに兄がいる。兄は我が儘放題でな、家業を継がないどころか親とも折り合いが悪い。弟に全てを押し付けようとしている。弟はできの悪い兄のとばっちりを良く受けて大変な思いをしているのだが、喧嘩をしたこともしようとも思わないそうだ。兄と自分とでは位置が違うからとね。見ている世界が違うともね。あまりにも違いすぎて、喧嘩を起こそうと、文句を言おうとも思わないとね。魁、君には対等たる友人が必要だよ。君が"子供"でいるためにね。早熟の天才ほど不幸なものはない。過去に天才少年、天才少女と持て囃されていた子はいた。しかし、その後その子達が有名になったかい?世界を変えたかい?早熟の天才が、そのまま大人になって世界に貢献した話を、残念ながらわたしは知らない。あぁ、話がずれたな。君が喧嘩できるような友達ができたんだ、それだけでも素晴らしいことだよ。椿や和泉だけでなくだ。友人ができれば世界が広がる。しかもルトベキア学園の生徒となると君が今まで会ったこと無い世界の人間だろう。うん、素晴らしいな」
「一息でここまで言える里佳も素晴らしいよ」
「わたしは一応、歌手だ。そして肺活量は成年男子とまではいかないが、かなりある。しかし、お褒めいただき光栄だ。さて、私が思うに――大分回り道してしまったな、私が思うに、兄君は君に友人を作って欲しかったのではないか。」

「エリュシオンで作った理由が書かれているのを見たことがあるのだが、兄君は、子供達に空の美しさを広さを高さを知って欲しい――だから作ったのだね。その"子供達"の中には君も入っているんじゃないだろうか。魁、君は限られた領域の中で生きてきた。あまり外に出たこともないそうだし、そして天照の仕事は近場が多いようだしね。――不満そうだな」
 魁の表情を見て、里佳は言った。
「世間ってのは十分知っているよ」
「あぁ、そうだな。和泉は言わないが、君は大分黒い仕事もしているようだしな。世間の澱んだところ見たことがあるだろう。私が想像できないような、澱みも知っているだろう。人間の醜さを見てきただろう」
 だがな、魁。
「君は、空の深さは知っていても、広さは知らない」
「……………」
「まぁ、知っている人間は少ないとは思うがね。だが、君の兄君は空の広さを知って欲しいと子供達に託したのだ。実際、君が学園に行かなければ、君の世界は遊都だけだったろうね。それから魁、君は"子供"なんだよ。我が儘ぐらい言ってもいいじゃないか。日頃良い子な君だからこそ、我が儘を言っちゃいけないと思っている君だからこそ、みんな君の我が儘を聞きたい。もし、金銭問題で学園をやめると言ったら"エリュシオン"はとても怒るだろうね。恵さんなんか王水でも持ってくるかもしれない。誰も、誰かを犠牲にして生きたいとは思っていないよ。仕方がない状態だったとしても、それを見せつけられるのは辛い。魁、君はもう少し周りに頼ってみてもいいんじゃないだろうか。見返りが欲しくて助けたわけじゃない、か。しかし、好意を受け取ることも拒否するのか?魁、君を助けたいと思っている人は、君が思っている以上にたくさんいるんだ」
 ここまで言ってようやくコーヒーを一口飲んだ。
「……、いいの、か?」
 困惑する魁に里佳はもちろんだとも、と肯いた。
「それに、君には君の事情が――聞こえは悪いがエリュシオンよりも学園を取った、譲れない事情があるのだろう?それを今になって迷うのは、兄君にも、保護者の方にも、エリュシオンにも失礼だ」
「……それもそうなんだけど」
「学園に行かなければよかったと思ったか?」
「いや、里佳の言うとおり友達も無事できて楽しいさ」
「なら、それでいいだろう。何を今更言うことがある」
「あぁ、そうだな」
 ふぅっと息を吐き出す。その空気は重い。吐き出し、お腹も胸も軽くなった。
「なんか、すっきりしたな。ありがとう、里佳」
「いいや、こちらこそ理解していただけて光栄だ。良く話の結論が分からないと言われるのだ」
 いや、それはなおした方が良い。
「あぁ、魁。兄君がどうして君に学園に行かせたかったなんて、単純に考えておけ」
「学歴社会……?」
「この世界は実力社会だから、それは低い――もっと、単純にだ。ルトベキアはお兄さんが通っていた学園なのだろ?」
「あぁ」
 厳密にはルトベキアとなる前の研究所で暮らしてきた、と違うのだが、それを言う必要はない。
「なら、話は簡単だ。一緒にいられる時間が少なかった、可愛い可愛い弟に、自分が暮らしてきたところを見て欲しかった、それで十分だ」
 魁は一瞬固まり、がっくりと肩を落とした。溺愛してくれた兄を思い出しながら、呻いた。こんなことで迷っていた自分が馬鹿みたいだ。
「…………絶対、ソレだ………!」
 どんぴしゃり!