章・過去が眠る楽都市で踊り狂え

11.眠る過去の揺り籠の夢


 
  



 小さな墓は、背中で隠れている。色とりどりの花が四人を包む。
 カナメの妹で――サトルの伴侶だったナツメ。

 この混迷の時代、歴然たる格差が存在する。
 
 知識としては知っていた。この時代に生きる人間なのだから。
 雅人は胸に苦いものが広がる。
 だが、自分を取り巻く環境はその影を踏むことのない場所だった。
 京都の支配者といってもいい――遊都の天照の位置にある。違いと言えば天照は自ら影を踏み、北條家は影を忌避することだろう。
  
 知らず、利用され、麻薬が元でその命を失った少女。

 自分と同じだけの時間を生きているというのに、二人の横顔ははっとするほど大人だ。
 意識が違う。
 “生きる”
 その意味が違う。

 「じゃあ、君達が金持ち学校でなに不自由なく暮らしているのに、僕達がドブ這いずり回って、残飯を腹に掻き込んで、明日死ぬかもしれないくそったれた生活送ってきたのは不公平じゃないのですか?」

 かつて言われた言葉。
 人それぞれ違うのは、仕方がないことだ。だが。

 そのことを知っていることと、感じることは違う。

 腕にそっと触れる手があった。思わず体が跳ねる。蘭だ。不自然なくらいいつもどおりの表情だ。
「じゃぁ、うちらはこれで。局長から恵さんを守ってくるわ」
 あんたらはゆっくりするといいぜぃ。

 腕をとられたまま進む。花畑は黄色のみ――ルトベキアの花一色に変わった。
 燦々と太陽は照っているのに、風が先ほどより冷たい気がする。
 静かに、声が流れた。
「あの後ね。この孤児院ができて、医者の紹介で来たんだってさ」
 二人の話だと、わかる。
 前を歩く蘭の顔は見えない。
「でも軌道に乗ってきたとき、馬鹿な裏の連中――残党がね、復讐にここに襲ってきて、火を放った。裏切り者だと。裏から表にいけたやっかみさ」
 子供を火からかばい恵は背中に大きなやけどを負った。今でもその痕が残っているらしい。
「二人はね、立ち向かったんだけど。マギナ使いだったんだよ」
 為す術もなく、盾が来たときには再び入院することになった。死者は幸いなことになかったが、傷跡は今もなお子供達を苦しめている。
 二人は悔しくて、悔しくて。
 新しい場所を、再び守りたかったものを守れなかった自分たちに絶望して。
「それからね、マギナを倒すすべを医者に頼み込んで――叩き込まれたんだ」
「で、あんたを負かした?」
 蘭は苦笑した。
「あの頃は――自分が無力だって知ってたのに、やっぱり思い上がってたんだ」
 マギナ使いはただの人間より上だと。
 蘭が立ち止まり、空を仰ぐ。
 何か、決心したように、鋭い声が雅人に突き刺さった。
「あんたは、その力で何を為す?」
 それは、どこか、あの医者と似ていた。
「何も未来が無いんだろ?」
「んだと?」
「力をどんなにふるっても、お前の居場所はできないぞ」
 ――っ。
「ガキ大将気分はもう卒業しな、ガキが。力だけじゃ駄目なんだ」
「俺はそんな、」
「実家には優秀な弟がいる」
「……俺には性が合わないっつってんだろ」
「いいわけだろ。敵わないから、戦わないだけだ」
 あんたの家は、力が強くても意味がないところだから。 
「中途半端なプライドがあるから、長男だというだけで、その場所を与えられるのが嫌なんだろ」
 本当は、自分が為したいと思っているのに。
「…………」
 蘭は背中を向けたまま、告げた。
「わたしも駄目なんだ。わたしは望みだけだから。力がもう、ないから」
 なぁ、まだ未来がある、青年さん。
 振り返り、光が蘭を包む。
 不思議な瞳の光に引き込まれる。
 再会してからのふざけたものは全くなかった。
 裏切りの、その二人と同じ“大人”の光。
 自分にはない、光。
 蘭は静かに、されど力強く求めた。
「英雄に、なってくれ」
 





≪何から、話せばええんやろうな≫
 薄暗い部屋の中、双子は互いの手を握りあう。
 六柱の三人に螺槇の娘――そして、英雄の後継者。
 一体何をしようとしているのか。
 いや、むしろ。
 その気になれば、“何でも”できる集団だ。
≪おにいちゃんにまるっと丸投げでいいと思うわよー≫
「おい、こら。不良娘」
 半眼のマドカに、イソラはケラケラと笑った。
≪失礼ね。こっちは仕事をちゃんとしてるのよ。…………とうとう見つけたわ≫
 双子以外の視線が、少年DOLL達に注がれた。空気が変わった。
≪仮説が、仮説で――ほぼ無くなった。そのあたりから説明したらいいんじゃないかしら?≫
 マドカ――エンは周りを見、髪を払った。
「まともな説明できるの、俺しかいねぇな」
 まぁ、チビガキにも約束したしな。
 ふむ、と腕を組み、まとまったのだろう、にやりと笑った。 
「なぁ、RPGで魔法使いが何故いるか、わかるか?」
 双子は顔を見合わせた。いま、何故、ゲーム?
≪はいはいはいはいはいはい−!!!≫
「電源引っこ抜くぞ」
 テンションを上げた狐に冷たく言い放ち、双子に向き直った。
「人間、筋肉馬鹿じゃなくても、魔法という知識があれば化け物に勝てるという幻想が欲しいからさ」
 いや、むしろ、知識を生かすために、力で倒せない化け物がいると考えてもいいな。
「今はマギナという力があるが…………この世界に必要だと思うか?」
「え?」
 マギナをもたらし、不安定な世界を変えた英雄の一人の言葉に、動揺した。
 必要に決まっているではないか。
「マギナによる恩恵はあなた方が一番知っているかと思いますが」
「たしかにな。だがな――」
『開・幽弦の炎』
 青白い炎を持ち、エンは首を傾げた。
「化け物もいないこの世界に、この破壊の力は過剰じゃないのか?」
 炎を消し、続ける。
「巨大生物も、魔法を操る化け物もいない、この“平和な”世界に、魔法は必要か?」
 いいか。
「この力は、足が速い、遅いなんてレベルじゃない。これは単なる差異だ。だがマギナがもたらすのは有無だ」
 力有るものと無いもの。
「大昔のRPGの使い古されたネタだろ。力が有るものと無いものがそろったとき、現れるのは――二パターン。
 力有るものが迫害されるか、力ないものが迫害されるか、どちらにしろその先にあるのは……争いだ」
 そして、第三の巨悪が現れ、力を合わせようとなる。エンディングは必ず色々難しいけれど力を合わせていこう、だ。
「なぁ、わかるか。俺たちが作り出したのは、差ではない、有無の世界だ。そしてそれはたった十数年で、もう争いが生まれ、増えている」
「でも、それは、あなた方が作ったものでも、あなた方のせいではないです」
 エンは首を振った。
「なぁ、俺たちは過去を知り得る環境にいた。RPGにもラノベにも――もう一般人にはなじみのない過去の戦争のない頃作られた“不幸な幻想”を知っている」
 手に力がこもる。
「だから、本当は、この力を――MaGiNaを発表する気はなかったんだ」
≪わいらは、エンの“癒歌”、史の“大地の浄化”、レギナのエネルギー供給だけやったんや≫
 まぁ、それに付随する桜の機械とな。
≪でも、それは今の杖とか剣、戦闘機じゃなくて、生活に必要なもののはずだったの≫
「でも、そんなことをしても………今の力は発見されたはずです」
 明の言葉に、エンは告げる。
「だが、抑止力が違うだろ」
 声を女性の声にする。
「“癒し”の力を“破壊”に使うなんて!!」
 肩をすくめる。
「そんなの許されないっ!!」
「少なくとも、そういう意識が人々の心に根付いていたはずです」
「癒しだったら、権威ができたとしても、元は善だからな。腐ったとしても正常化されやすいはずだった」
 では、何故、と明が言いかけたとき、ふと、思い出された。
 この力が発表されたとき。あのとき、確か。
「発表のとき、レジスタンスが、会場を襲った」
 銃に爆撃、血の海となっていただろう――英雄が起たなければ。。
「あぁ。あのとき、この馬鹿狐がいなくてな――まぁ、健一と千里もいなかったんだか――その情報を掴むのが遅れて」
≪慌てて駆けつけて、助けているところをちょうど見つかった≫
 必要ない者が行って、無用な質問をされるのをさけるためだった。だが、それが裏目に出た。
 天翔る竜にのって、そのまま瓦礫をなぎ倒した。剣神はすぐさまレジスタンスの中心に起ち鎮圧、風霊は空から迎撃した。
 崩れた建物、生存は絶望的と思われたとき、瓦礫の中から全く無傷の記者達に、その前に立ち防御壁を張っていた英雄。
 そして、傷ついた者をその歌によって、癒した天使。
 それは―――完璧なデモンストレーションだった。
 完璧で、最悪だった。
「嫌が負う無く、俺たちは曝された。“攻撃魔法”を先にだしちまったんだ」
 もう、そこからは転がるように、加速され、未来の“平和”を全てなぎ倒し――それは、今もなお。
「俺たちの声はもう届かない」
≪あたし達のせいで、中途半端になってしまったの。中途半端に治安が回復して、経済が成長して≫
 新しい技術を生かすための企業ができ、伸びていった。マギナができるのはほんの一握りなのに、そこにスポットがあたった成長。
≪歪みがきている≫
「元々、日本には貴金属が多く存在しました。レアメタルの占有率も高かった。海にも埋まっておりましたし」
 でも、所詮、島国なのです。いつか必ず、資源は無くなる。
「基礎ができていない成長はいつか崩れるもんだ」


「おかしいと、思わないかぃ?なんで、この社会は子供がマギナ使いだったら、その親の会社を優遇するなんて期待をいだかせているんだ?」
 蘭の言葉に雅人は応える。そんなことより、英雄の意味を問いたいというのに、蘭の迫力に押され、口が開く。
「企業と提携していて、そこが研究に――」
「どこに使うんだよ?ルトベキアで、あんたは、親にわざわざ情報を流すかぃ?いや、そもそも、そんな流せる情報を教えられたかぃ?」
 ――ない。マギナの使い方を、剣の使い方を、戦い方を、その心の構えを教えられただけだ。
「………わかるかい?社会は――中央政府は、マギナ使いを上に起たせたいんだ。力有るものが、力ない者を支配する社会を作りたいのさ」
 それは目下、成功してるけどね。
 あとはマギナ使いの人口を増やすだけだ。支配人口が7%もいれば十分だ。
「………たぶん、跡取りになる可能性の低いあんたと、わざわざ相川家の娘を婚約させたのはそのあたりの事情が絡んでるかもね。なんか政府の裏約束的な?」
「………な、んだと」
「この力が遺伝するものかどうかはわからないけど、マギナ使い同士を掛け合わした方が生まれやすいと考えるのはおかしくないねぇ」
 あの、家出騒動で手を貸した医者が、その理由を“気にくわない”といっていたのを思い出す。彼は読んでいたのだろうか。
 ―――鳥肌が、立つ。なにか、大きなうねりに自分はすでにはまっているのではないか。
「……あたしは、英雄・神崎神がだいっきらいだ。彼だけだったのに。この流れを止められる人間は彼だけだったのに、途中で全てを投げ出して逃げやがった。
 彼がいたら、学園にガルムなんていう戦闘機を置かせなかっただろう。いや、そもそも、ソルジャーとかマジシャンとか、そんな専門課程を作らなかったはずだ」
 彼がいたことは全般に習い、子供達に特化をしいる事はなかった。
 蘭の言葉に、雅人は違和感を感じた。
 まるで、ルトベキアが、戦闘員を作り出す学園のように言っている。
「おいおい、ねぼけてんのかよ。ルトベキアは基本、ガーディアンのために……」
「寝ぼけてるのはあんたのほうさ。なんで、学園がRPGの職業育成してるんだ?」
 蘭は顔をゆがめた。手を挙げ、だらんと下ろした。
「戦いやすかったろう?この夏期実習」
 エレクトロが整備した武器は使いやすく、リサーチャーの情報は正しく、怪我をしてもヒーラーがいる。後ろはマジシャンが守り――
「ソルジャーのあんたは悩むことなく剣を振るった」
 ねぇ。戦いやすかったよね?
「マギナを使えない連中を蹂躙するなんて、あくびが出るほど簡単だったよね?」
 だって、たった、五人だ。五人いれば――
「あたし達は立派な軍隊なんだよ」
 ねぇ。しかも。
「あと、一人、プランナーがいたら、蹂躙した土地を甦らせれるよね?」
 ざわざわと、ざわざわと胸が苦しくなっていく。
 それは、これは、まるで誘導尋問のように、決められた回答を頭によぎらせる。
「……なんだよ、中央政府が、どっかに戦争をふっかける気かよ。俺たちルトベキアを使って」



「そんな、馬鹿な!!」
「ありえませんよ!」
 双子の悲鳴に、DOLL達は目を伏せる。
「何故?もう、日本には資源が少ない。他国とも交流していない。もし、他の国がマギナを知らなかったら?この日本ぐらい確立していなかったら?」
「簡単に世界を支配できるだろうな。少なくとも第二次世界大戦なんて目じゃないぜ?」
 圧勝だよ、圧勝。
「俺が町の中心で、“マイク”で詠うだけ、死屍累々ができあがるぜ?わかりやすい武器なんていらない。警戒なんてできない。俺たちの声が武器なんだからな」
≪ま、ジョーのアウターネットが出てないから、リサーチャーの活躍は裏方の情報処理に回って少ないだろうけどね≫
 アウターネットが出れば――もう、完全勝利だろう。そこにいるだけで、数キロの情報が彼の手元にはいるのだから。そして、すぐに情報がリサーチャー同士に回るのだから。フロンティアなんていう端末を使わなくても良い。
「そして、ガルムなど、鋼鉄の体をだせば、――化石燃料なく動くのです――それだけで、町を制圧できます。世界がそこまで技術を回復していなければ勝てる戦争です」
 でも、だが――!
 双子は、首を振る。
「それは、仮定の話でしょう!どこに、証拠があるっていうんだよぅ!!」
≪――あたし、今、日本海側にいるのよね≫
 無表情の少年の口が動いた。
≪前にね中央政府が船を出してたの。大陸にね。そして、帰ってきたわ≫
 


「あたしがここに――中央政府からこの遊都に左遷された理由を教えてやるよ」
 断ったのさ。
「大陸に行って、その経済状態を、“マギナ”のような力の有無を――日本が勝てるかどうかを調べてこいってね」
 あたしは。
「馬鹿なことをするのが好きだ。ふざけていることが好きだ。シリアスなんてごめんだね、争いなんて非生産的なイベント大嫌いだ」
 あいつらは、中央政府は。
「世界の薄闇を切り裂く“大剣”となれといったよ。これが世界のためだと。皆が等しく平和になるために、全世界を平定することが必要だと」
 “クレイモア”――ガーディアン、“盾”と対為す存在。完全なる軍隊の名。
「情けないよ。戦争を捨てた日本が世界を救うために侵略戦争を起こすなんて」
 それなら、技術参入でもいいじゃないか。奪い、押しつけるのではなく。技術を与え、資源をもらえばいいじゃないか。
「そういったら、どっちにしろ、争いはできるんだってさ。そりゃそうだよね。日本が今、マギナと非マギナで争いが起きているんだから」
 だからさっさと支配下に置いてしまった方が血が少ないんだってさ。
 自分の国すら、まだまだ復興途中なのに。
「そんな。馬鹿な」
「クレイモアを断った、あたしと――信二は遊都に飛ばされた。だから、あんたに手伝って欲しいんだ。抑止力になって欲しいんだ。この、馬鹿な事を止める」
 もう、あたし達は、中央には戻れないから。その権限を奪われてしまったから。
「おい、俺の進路なんてまだ決まってねぇし、だいたい俺にそんなの関係っ」
「ない?本当に、今の話を聞いてそう思う?」
 考えろよ、力のみの者よ。
「戦争にはね、英雄が必要なんだよ。自分達の正義を強調するために」
 ねぇ、わかってる?自分の“名”を。
「ねぇ、ねぇ、本当に自分には関係ない。そう思ってる?あんたは必ず渦の中心に起つんだよ?あいつらは実績なんてないあんたをもう、こう呼んでいるんだよ?」

 ――英雄の、再来ってさ!!



「ゆうゆうとまっさん――悠と雅人が?」
 貴女たちにも関係していると言われ、出てきた友人の名に血の気が引く。
≪生け贄みたいなものよ。本人の意志なんてまるで無視。家柄が良くて、力もある。一人は英雄を崇拝し、一人は戦闘が好き……使いやすいでしょ≫
「英雄・神崎神の再来なんてもんはそもそもありえないんだよ。英雄は、本来科学者だ。電気を発明したとかそれ以前の世界と一変させてしまった大科学者と同じなんだ」
 有無の世界を作り出した科学者。無かった頃が信じられないと生きていけないと思わせるようなそんな、世界を変えた人。
「再来って言うなら、もう一回全く未知の一次エネルギーを発見するこった」
「じゃぁ、二人は」
「間違いなくかり出されるでしょう。もう、彼らの通り名が広まっておりますから、あとは実績を作るだけかと思われます」
 それが本人の意志を無視するものであったとしても、彼らは強行するだろう。
 既成事実さえ作ってしまえば、あのときと同じ。坂を転がるだけだ。
≪名を使われた、英雄が怒るってこともない。日本を救った英雄っていう免罪符をフルにつかえるっちゅーこっちゃ≫
 お手上げだ。
「上手いやり方だとは思うぜ?お世辞抜きにな」
 戦争に勝って、自国が豊かになれば――
「非マギナはマギナ使いに感謝するだろう。そしてその力を知って――上に立つ者として認めるだろうな。英雄の再来っていう最高の旗もある。
 自然と――己の“身分”をわきまえ、自国は富に沸き、復興は終わり世界の頂点として発展に一丸となって突き進むのみ、ってな」
≪たとえ、それが罪だとしても、有り余る栄光が手に入るんや。やるっきゃないって感じ?≫
 確かに。確かにそうだ。考えれば考えるほど、勝てる戦いだ。だが。
「私たちは。ルトベキアは、そのために、この力を―――学び錬磨したわけじゃない」
 少なくとも、この四年で、自分たちは人々を守る力を手にいれてきた。盾たる力だ。剣ではない。
「俺たちだって、誰より英雄がそんなつもりはないさ。だからこそ、“守るべき者”としてガーディアンを作り、方向を先に決めたんだ」
 その力も必要だったのもあり、中央政府も強くはでてこなかった。――英雄という抑止力が無くなるまでは。
「わいらももう個々にうごいとったからな。もうなんの権限もない。理事の座も降りとったし――」
 双子は首を傾げた。
「史様がいるではないですか」
「そうだよ!癒しの方がいるじゃないですか!」
 ――そのことばに、顔を明るくするものはいない。むしろ重く、重く空気がのしかかる。
 エンは拳を強く握った。
「あぁ。あいつがいるからこそ」

 ―――こう、なったんだ。

 その言葉を、理解できなかった。
 柔らかな笑顔、その奥に、なにが潜んでいると言った?
「小田切・史。あの方が――核なのです」
 能力発表の際、レジスタンスを誘導したのも。
 学園を、武装化させたのも。
 世界に、剣を向けようとしているのも。
「我が父、螺槇雷蔵を逃がし、その技術を取り込んだのも」


 ―――英雄・神崎神を、殺したのも。


≪わいらが、わいらこそが、止めな、あかんやろ?≫