雅人を除くルトベキア学園チームはRICCAのコンサートを聴きつつ、孤児院の手伝いをしていた。
今はすることがなくなり、純粋にコンサートを楽しんでいるのだが。
雅人がこないと知ったときの静流の目がとても怖かった。静流が確実にやさぐれた気がする。私の癒しが……。
燐はちょっと悲しくなった。
確かに有意義な夏休みだった。簡単な“癒し”ができるようになったし、いろんな人と知り合えた。……魁についても知れたし。
でもなんか、失うものもあったかな?
手を見る。すこし固くなった手のひら。目を閉じ、マギナを集める――。
駄目だ。
学園にいたときよりも格段に、集まらない。
この不調の原因がわからない。エンに尋ねたのだが、気にするなの一言だった。気にするに決まっているのに。
どうもすっきりしない。もやもやとする。
電話をかけていた恵は、電話の受話器を置き、にこっと笑った。
「みんなー、魁君くるそうですよー」
募金を集めていた子供達が振り返った、
瞬間。
風が吹いた一瞬に募金箱が積み上げられ、瞬きを繰り返した後には走り去る小さな背中しか見えなかった。
!?
「……ここではマギナとか、いらなそうだよね」
いろんな意味で超人すぎる……
悠は遙か彼方を見た。
ここは異次元です。それぞれの基本値+20みたいな。
「魁君は、好かれていますのね〜」
静流の言葉にミミと恵が頷いた。
「そりゃね。魁がいたから、うちらがいるわけやから」
向こうの方から、わぁーと子供の歓声があがる。
一拍遅れて、なにか小さな影が空に舞っている。ぎゃー。
少女二人は、一瞬のことでそれが何か把握できなかった。
悠は見なかったことした。
遊都人はたまやーと言った。
“まだまだ楽しんでいくよーーー!!”
軽やかなBGMはまだまだ続いていった。
いつの間にか、風が冷たくなっていた。空が薄闇に包まれ始めている。
話を終え、一階に下りてきた。狐以外の者達もそれぞれの居場所に帰った。
チビ双子達はまだ上で狐と話し込んでいる。見た目に反してしっかりしている。
たしかに、彼女たちがいたら“英雄の再来”の監視もできてちょうどのだが、あとは狐に任せよう。
遠くの方で、歌が聞こえる。
いつの間にか、義務でしかなくなっていた歌。そんな自分の歌ではなく、心のこもった歌だ。
ラジオをつける。チャンネルを回し、チューニングをあわせる。
≪今日はありがとうございます。楽しい時間をありがとう。――最後に、この孤児院を作られた水澤英雄様に捧げます≫
流れる曲、それは――“翼をください”、だ。
「はっ。はまりすぎて笑えねぇな」
エンはほおづえをつき、瞼を下ろした。
会ったこともないはずなのに、英雄の心が伝わっている――そのことに、何故か胸が苦しくなった。
窓を開けると、空は黄色い。黄昏とはよくいったものだ。
どこか、不吉な色。
煙草の箱を求めて胸元を探るが、ない。舌打ちをして、代わりに空気を吸う。
これからどうなるのか。
英雄のことだけだったら、自分は何もしなかっただろう。ほかに為す者がいるのだから。
戦争のことだけだったら、自分は何もしなかっただろう。自分の為すべき範囲の外なのだから。
それほどに関わりたくない存在――中央政府。
エンにとって――決して見過ごせず、それ故に彼は征かなくてはならない。
「はした金で売られたモルモットだって噛み付くぜ?」
暗い目で、沈んでいく日を見る。
瞳を閉じて、透明な歌声に耳を傾け、
いなくなった彼を想った。
こんな空を、彼はなんと言うだろうか。