章・過去が眠る楽都市で踊り狂え

11.眠る過去の揺り籠の夢


 
  

 雅人を除くルトベキア学園チームはRICCAのコンサートを聴きつつ、孤児院の手伝いをしていた。
 今はすることがなくなり、純粋にコンサートを楽しんでいるのだが。
 雅人がこないと知ったときの静流の目がとても怖かった。静流が確実にやさぐれた気がする。私の癒しが……。
 燐はちょっと悲しくなった。
 確かに有意義な夏休みだった。簡単な“癒し”ができるようになったし、いろんな人と知り合えた。……魁についても知れたし。
 でもなんか、失うものもあったかな?
 手を見る。すこし固くなった手のひら。目を閉じ、マギナを集める――。
 駄目だ。
 学園にいたときよりも格段に、集まらない。
 この不調の原因がわからない。エンに尋ねたのだが、気にするなの一言だった。気にするに決まっているのに。
 どうもすっきりしない。もやもやとする。
 電話をかけていた恵は、電話の受話器を置き、にこっと笑った。
「みんなー、魁君くるそうですよー」
 募金を集めていた子供達が振り返った、
 瞬間。
 風が吹いた一瞬に募金箱が積み上げられ、瞬きを繰り返した後には走り去る小さな背中しか見えなかった。
 !?
「……ここではマギナとか、いらなそうだよね」
 いろんな意味で超人すぎる……
 悠は遙か彼方を見た。
 ここは異次元です。それぞれの基本値+20みたいな。
「魁君は、好かれていますのね〜」
 静流の言葉にミミと恵が頷いた。
「そりゃね。魁がいたから、うちらがいるわけやから」
 向こうの方から、わぁーと子供の歓声があがる。
 一拍遅れて、なにか小さな影が空に舞っている。ぎゃー。
 少女二人は、一瞬のことでそれが何か把握できなかった。 
 悠は見なかったことした。
 遊都人はたまやーと言った。
 “まだまだ楽しんでいくよーーー!!” 
 軽やかなBGMはまだまだ続いていった。

















 いつの間にか、風が冷たくなっていた。空が薄闇に包まれ始めている。
 話を終え、一階に下りてきた。狐以外の者達もそれぞれの居場所に帰った。
 チビ双子達はまだ上で狐と話し込んでいる。見た目に反してしっかりしている。
 たしかに、彼女たちがいたら“英雄の再来”の監視もできてちょうどのだが、あとは狐に任せよう。
 遠くの方で、歌が聞こえる。
 いつの間にか、義務でしかなくなっていた歌。そんな自分の歌ではなく、心のこもった歌だ。
 ラジオをつける。チャンネルを回し、チューニングをあわせる。
≪今日はありがとうございます。楽しい時間をありがとう。――最後に、この孤児院を作られた水澤英雄様に捧げます≫
 流れる曲、それは――“翼をください”、だ。
「はっ。はまりすぎて笑えねぇな」
 エンはほおづえをつき、瞼を下ろした。
 会ったこともないはずなのに、英雄の心が伝わっている――そのことに、何故か胸が苦しくなった。
 窓を開けると、空は黄色い。黄昏とはよくいったものだ。
 どこか、不吉な色。
 煙草の箱を求めて胸元を探るが、ない。舌打ちをして、代わりに空気を吸う。

 これからどうなるのか。
 
 英雄のことだけだったら、自分は何もしなかっただろう。ほかに為す者がいるのだから。
 戦争のことだけだったら、自分は何もしなかっただろう。自分の為すべき範囲の外なのだから。
 
 それほどに関わりたくない存在――中央政府。 

 エンにとって――決して見過ごせず、それ故に彼は征かなくてはならない。
 
「はした金で売られたモルモットだって噛み付くぜ?」 

 暗い目で、沈んでいく日を見る。
 瞳を閉じて、透明な歌声に耳を傾け、


 いなくなった彼を想った。








 こんな空を、彼はなんと言うだろうか。