「はぁ!?魁が、独り暮らし!?」
燐が大袈裟に叫んだ。
静流も目をパチパチしている。
…さりげに馬鹿にされてない?
まぁ、『魁』がそんなことするような少年でないと思わせているのはこちらだけど…
ちょっと軽く傷付いたかも…
魁は頷いた。
「うん。僕、独り暮らし」
まぁ、週に何回かエンのところにご飯を作りに行っているけど。
「はいはいはーい!」
脳天気な声が後ろからかかってきた。
カナメは魁の背中に抱きついた。
「別に魁相手なら泊まってもいいんじゃないいいんじゃないでしょうか!?むしろうらやましいですよ、両手に花かよ!ちびッ子様!」
代わってくれ!
魁は肩にのしかかる腕をふりはらった。
「黙ってて」
黙れこの野郎。
ふりはらわれたカナメはにやにや笑っている。
ふりはらわれたというのにまたじゃれ付く。
明らかに魁の猫被りを楽しんでいる。
『魁』ならここでカナメを殴ったりしない。
……む、むかつく。
押さえ役のサトルに視線を移すが…
サトルはソファーに身を蹲っている。肩は微弱ながら震えている。
……爆笑かよ!今の俺って爆笑かよ!
こんな姿、だから知り合いに見られたくなかったのに!
「……でも。魁君しか頼れる方がいらっしゃいません」
考え込んでいた静流がそう呟いた。
…え?
魁はカナメを剥がそうと揉合いになっている動きを止めた。
カナメはここぞとばかりに髪の毛をひっぱる。
…後で殴る。
静流の目は清んでいた。
その瞳には躊躇いもなにもなく、決意、そして魁への信頼の光がある。
……参ったな。
魁は嘆息した。
……こんな友達を見捨てるわけにはいかない。
本当なら、今すぐにでも帰って欲しい。
それは仕事があるからとかいう理由でなく、ただただ静流達の安全を考えての事だ。
「僕の家は、駄目。物理的にも駄目」
引っ越ししたばかりで人が住める部屋になっていない。
「俺らん家はー?二人くらいどうってことないずぇい」
エリュシオンか…
エリュシオンなら、二人を預けても大丈夫、だけど…
あそこはルトベキアの魁、ではなく遊都の魁―ジンしか知らない。
いや、この性格を習得するために手伝ってはもらったけど。
一応、自分が天照のエージェントということは口止しているが、この前の新しい子達には難しい。
自分の話になって、変なボロが出るとやばい。
「…いや、駄目。あそこは二人が疲れる」
それに恵さんに悪い。
サトルが肩をすくめた。
「別にいいと思うけどな」
「ほな、どないするん?」
目がまだ笑っている。
もう、選択肢は一つ、だ。
いつまで、という制約がないというのが最大のネックだ。
燐達の護衛を一日中、そして長期間していたら他の仕事ができない。
それは経済的によろしくない。
そしてバイトに行くといっても一日中やら夜間だけ抜け出すと不安にさせる。
仕事の間、完全無欠に安全なところに預けておくのが一番いいだろう。
そしてそこは……
「エンに頼んでみるよ」
兄さんの友達に。
…兄の友達と言ったら否定する人だが。
花咲く笑顔が二つ。
「ありがとう!」
静流にぎゅっと手を握られる。
燐もそれはそれは嬉しそうに笑う。
こう、ストレートに感謝されると体がこそばゆい。
魁もにこにこしているところで
カナメとサトルが両方からそっと耳打ちした。
「「…で、どっちが本命なん?」」
魁の笑顔はそのままで
裏拳が決まった。