章・過去が眠る楽都市で踊り狂え

05.賞味期限切れの恐怖の大王


 

「っあー」
「雅人、行儀が悪い。」
近藤から許可証をもらった二人はカナメ達が帰ってくるのを待っていた。
制服―白のロングコートに身を包んでいる。
マギナを特殊に編みこんでいるため、通気性がよく、軽い。
「…あのおっさん。本気だったな」
ありゃ、マジで英雄探ししたら追い出されるぜ。
「……あぁ」
苦々しいとはこのことだ。
しかし諦める気はない。
「ただ気になるのは、何故情報屋が英雄探しをしないか、だな」
「あぁ。すっげぇ美味しいネタなのにな」
「おっまたせぇー!」
「たくっ手間かけよってからに、あの糞共がっ」
カナメ達が帰ってきた。
「悪い。待たせた」
「いえ。お仕事ご苦労様です」
悠は腰を上げ―上げない雅人をどついた。
「あぁ、タメ口でいい。同い年だろ」
「悪いね。こんな馬鹿が監督で。困ったことがあったら僕にいってれたらいいよ」
サトルはカナメの抗議の声を押さえ付け、続けた。
じゃ、早速遊都初仕事に行きますか。


「えーとサトルは局長の事務補佐なんだが、俺は捜査とか追跡とかぶっちゃけ外回りが仕事」
「ってことで、君達には遊都の地形を把握把握してもらいましょう」
「地図はもう頭に叩き込んでますが」
しかしサトルは笑って首を横に振った。
「いや、それはもう昔の地図だよ」
遊都は工事が多い。
新しくたったと思えばすぐに潰され、道がないと思っていたらいつのまにか出来ている。
「都市のみんなが好きかってに作るからね。困ったことだよ。」
しかもかつて使われていた地下に走る鉄道後にも人々は住んでいる。
そこは麻薬や賭博―裏世界の温床になっている。
混沌CITY、遊都なのだ。

「で、まぁ地下はちっとレベル高すぎだからな。空の道を教えるな」


「遊都はとにかく人口が多いからね。普通の歩道を走ってたら人が多すぎてなかなか進まない」
だから、上の道を行くのさ。
「さぁ、付いてきて」


「…上?」
悠は広い空を見上げた。
たしかに上だ。上なんだが…。
「いいんですか?これ」
悠達は今、ビルの屋上にいた。
空の道。
その情緒的な名前とは裏腹に―その実体は。
「いいよ。暗黙の了解だ」
つまり、ビル―建物の屋上をわたると言うものだった。

「…すげぇ!俺、一回こういうのしてみたかったんだ!」
雅人が嬉しそうにはしゃいでいる。
「忍者みてーー!!」
拳を握って。


「他の都市ではないんだな」
こっちでは普通だぜ。
カナメは「ほれ」と指差した。
指の先には12、13才の少年達が隣の屋上にいる。
「あー。カナメ兄だ」
一人がこっちに気付き、走ってくる。
ビルとビルの間は数メートル。
一応こちらの方が低い。
しかし悠の顔が青くなる。
「あぶなっ」
少年は怖がることなく、取りつけられ縁からのびている木の板を踏み台にして飛び、軽々カナメに近付いてきた。
その後を同じようにその子の仲間が続いた。
「あれ、新しい盾の人?」
「あぁ。俺達の後輩」
普通だ。
普通すぎる。
悠は認識した。
ここは、他の都市の常識が通用しないところなのだ、と。
建物の間を覗き込むと御丁寧にも網が張ってあった。
「でも、こっちから向こうに行くときはどうするんですか?」
「それはまた別ルートがある」
「カナメ、カナメ!早く教えろ!」
子供達が純白のコートに真っ赤な頭、巨体の雅人に驚いた。
「すっげぇ赤だ!レッド!怪人28号だな!」
「おもろいな!なんて名前?」
「マギナ使えるん?」
雅人はあっというまに子供達に囲まれた。
「こらこらこら、仕事中だ。遊ぶな」
そろそろ家に帰る時間だろ。帰れ。
ブーイングがおこるが、そこはサトルが悪巧みの笑みを浮かべた。
「…エン様が注射しにくるぞ……?」
ぎゃー
子供達は真面目に青ざめてビルの上を飛び越え逃げていった。
「エン様…?」
閻魔大王ですか?
その台詞にカナメは吹き出した。
「はまりすぎや!」
「違う違う。僕達の係り付けの医者。腕はいいけど注射だけが無茶苦茶下手で」
恐怖の代名詞になっている。
「ま、後で紹介するよ」
何を隠そう、僕達の師匠だし。
淡く笑った。
「まぁ、それは後でね。今はとりあえず空の道を説明するよ」
雅人が待ち望んでるしねぇ。
「悠ー。行くゾ!」
「はいはい」
本当に。
じっとりと暑い湿気のなか悠は呟いた。
「英雄を探す暇がなさそうだ」
しかしそれを聞き止めた者がいた。
「は?英雄?」
雅人頷いた。
「あぁ。本当はな。英雄探しもするつもりだったんだが。局長に無茶苦茶怒られた」
悠は渋面。
この馬鹿、いらんことまでしゃべって…
「あー。それは怒られるな」
「でも、何で英雄探しが無駄なのかわかんねぇんだよ」
サトルは納得の面持ちで、悠を見た。
「…ん。英雄探しは止めておいた方がいいよ。お金の無駄だから」
「…なんでですか?」
最大の疑問をいとも簡単に言ってのけた。

「英雄探ししてるとな、圧力がかかったりで邪魔されて結局途中で止めさせられるんだってよ」
止めさせられる。
「まさか、誰が、何のために!?」
サトルは肩をすくめた。
「さぁ。少なくとも英雄が見付かったら困るやつらか…」
英雄自身が、かもな。
…確かに、確かに行方をくらませたのだから探されたくはないが、だからといって
―英雄だからといって全ての英雄探しを止めれるわけがない。
「一体、誰が……」
カナメは悩める悠を見て、見て、見て、雅人を見た。
「お前も探してるのか?」
「いんや、俺は……家に居たくないから」
さすがに罰わるそうな顔をした。
「なんかな。前々から今日に用事をいれんなっつー言われてたんだが、つまらねぇから逃げてきた」
カナメは面白いと感じたのか、声にからかいがにじみ出ていた。
「なんだ、そんなことなら潰してきたらよかったのに」
「面倒」
一言で切り捨てた。
カナメは小声で突然話し始めた。視線は前を向いたままだ。
(あのな、悠に言うかはお前がきめろ)
(ん?)
(この遊都のほぼ全ての情報屋を黙らせることが本当にできると思うか?)
英雄話に雅人は合わせた。
雅人も何気無く言う。
(どういうことだ?)
確かに、商売好き、抜け目のない遊都の人間が引き下がったまま甘んじることは、考えがたい。
(誰か紹介してくれんのか?)
(いや、だがな)
考えてみろよ。
にやにやと、まるで静な場所に波紋を―騒ぎを起こすことに至上の喜びを感じているかのように―
実際感じているだろう―カナメは嘲う。
(もし、黙らせることが可能なら、一体誰が―可能なのか)
それさえ分かれば、納得できるまでいけるんじゃねぇか?
雅人も―答えにたどり着き―同じ表情を浮かべた。
「おい、何してるんだ。早く来いよ。」
サトルの呼び掛けに二人は答えた。