章・過去が眠る楽都市で踊り狂え

05.賞味期限切れの恐怖の大王


 



やば、やばいって!
エンは両手を指揮者のように振るい―手から光るものが飛んだ。
それは
悠の顔をかすめ、
カナメの服の一部を奪い、
サトルの足元、床に深く突き刺さり、
燐は―魁がとっさに引き寄せて難を逃れた。
それは壁を切り裂く。
慣れた様子で魁は向かってくる光るそれを手元にあったイソラ特製ハリセンを盾にした。
「エン、落ち着いて!」
「貴様らな、ここをどこだとおもってやがる」
「「「エン様の城です!」」」
条件反射で三人が命の限り叫ぶ!
「ここの主は誰だ!!」
「「「エン様ですっ!!!」」」
エンの動きは止まらない。銀に光る―メスが狭くはないが広くはない廊下に乱舞する。
悠は近くにいたカナメ、サトルを引き寄せて、マギナで防御壁を張った。
魁は燐を後ろに回して盾となり、そして巨大なハリセンを広げて盾とする。
奥にいる静流は―いま何が起こっているのか理解できずにポカンと口を開いていた。
「だったら俺様の城でぎゃーぎゃーど汚ねぇ言葉喚いてんじゃねぇ!!!」
俺様の耳が腐るだろうが!!!
「「「ごめんなさいーーー!!!」」」



途端、扉の残骸が盛り上がり―
「何しやがるっ!」
雅人参戦決定!
雅人は拳をエンに振るう!
エンは身軽にその岩をも砕きそうな拳をよけ、延びきった腕に肘で打撃する。
懐に一歩で踏み込む。
エンの手に煌めくメスが残像の光を残して上へ―雅人の喉を貫かんとす!
雅人は巨体に似合わぬ柔軟さを見せ―ぐっと身をそらせ、避ける。顎が薄く縦に切れた。
エンはさらに踏み込もうとするが腹に雅人の膝がめり込む。
そのまま足を振り払い、エンを跳ね飛ばすが―煌めきが走った!
雅人は心臓をめがけて放たれたメスを手の甲で弾く―
「はっはぁ!」
「……」
方や吼え、方や沈黙。

あぁあ!!
家が!家が!
拳が蹴りが家の壁を削りとっていく。
家を壊す気か!
「エン、家が壊れる!」
「後で直せ」
俺!?俺が直すの!?
理不尽だー!!

「魁、邪魔すんなよ!」
面白い!!
「雅人、止めろ!」
悠の怒声にも雅人は止まらない!
雅人が黒衣の襟を掴み、力に任せて引き上げる。
エンは冷静にみぞおちに膝を叩き込み、腕を掴み、ツボを押す。
「った」
反動で腕の力が抜け―逃れようとするエンの顔を殴る。
しかしエンには歪んだ不敵な笑みが浮かんでいる。
「誰が主かわかってないようだな、調教してやる」
エンはすぐさま腕をとり、回転力で背負い、投げる!



「師匠ー!ヤバい発言やで!」
「師匠ー!いてまえー!」
悠の結界内―安全を確保している盾組はもう観戦モードに突入していた。
「な、止めてくださいよ!」
悠のもっともな発言に二人はやる気をみせない。むしろブーイングを返した。
「ああなった破壊神エン様を止めれる者などいないのだよ、ジュディー」
誰ですか、それは!
「大丈夫やって、エン様まだ本気出してないから」
全然大丈夫じゃないですよ!
「余計激しくなるじゃないですか!」
二人は満足そうに頷いた。
「「あんさん、関西の人?」」
「神戸ですが?」
二人は満足そうにもう一度頷いた。
「「ええツッコミや」」
「今、関係ありません!」
悠は本気で結界から追い出そうかと思った。



「エン様はワイらの師匠やからなぁ」
「かっこええなぁ」
「師匠って?」
そういえば医者だと言っていなかったか?
悠は超健康体にメスを振るう医者を初めて見た。
「そそ、マギナ使いとの戦い方を教えてくれた師匠や」
悠は―固まった。
つまり、それは。
「おもろいなぁ。師匠がマギナ使いと戦うとこなんか久々や」
「まぁまだ、雅人はマギナ使ってないけどなー」
悠は冷や汗が流れる。
声は上擦っていた。
「それは、雅人がマギナを使っても、喧嘩が終らないって事じゃないですか!」

Oh,Yeah!

ゲラゲラと二人は笑う。

何もかもを遊び、楽しむ。
それこそが遊都の流儀!




ガックリと悠の首が垂れるのを見て魁は助けが得られなくなったことを悟った。
最後の頼みの綱が!
後ろから燐が魁の肩をつついた。
「魁、どうするの?」
少し青ざめている燐に胸が痛くなる。
こんな顔をさせたくてここに預けようと決めたわけじゃない。
そうだ。安心して預けれるとエンを信頼したからこそこそここに連れてきたんだ。
魁の中に沸々と沸き上がる感情があった。
目の前ではまだ朱金の殴り合いが続いている。
いったい、どこでこうなったのかなんて関係ない。
いい加減に…
いい加減にしろよ。
魁は盾にしていたハリセンから身を出した。
燐が慌てて引っ張るが、無視。
つられて燐も立った
「二人ともいい大人なんだから、いい加減にしてよ!」
イライラする。
こんなとき猫被りしなかったら思う存分暴れられるのに!

金も緋も魁を無視した。
すでに双方の肌には赤い筋が走っている。
「エン、先輩!」
「うるせぇ、下僕。逆らうな!」
「だまれ、後輩。観戦してろ!」
「みんな、危ないだろ!」
ヒット&アウェイを繰り返す二人。
「ガキはハリセンの後ろに隠れとけ!」
言ってはいけない一言が、

「てめぇが立ってかばっても、新堂娘が立ってたら」

上がはみ出してるんだよ!!


確かに、燐の方が背が高い。
確かに、立ってかばっても燐の頭ははみ出る。
確かに、自分の方が背が低い。
確かに、
確かに、
確かに…!


観戦から実況モードに変わった盾組はマイクを持ったような格好で叫んだ。

「「いってもたぁぁあ!!」」
さらに続く。、
「いやぁ、言ってはいけない一言ですねぇ」
「そうですねぇ。男が女の盾となる、この美談に亀裂がはいりました」
「精神ダメージ大きい!」
「いやぁ、早く身長を伸ばすことをお勧めしますよー」
「このことについて悠解説はどう思われますか?」
「…は?僕ですか?そうですね…いや、いいんじゃないですか?燐君にしゃがんでもらえばいいんですよ」
「「あ、なるー」」


ざけんなよ。


ぴたっと実況モードの三人の動きが止まった。
「いい加減にしろよ」
地獄の底から響くような声。
うつ向いて魁の顔は見えない。

「自分の城っていうなら自分から壊してんじゃねぇよ。
人の家で喧嘩して喜ぶなよ。
喧嘩ならそとの裏地にいってやってこい」
目に光る怒りは冷たく燃えている。

それで賭けられてファイトマネーを稼いでこい。


魁は黒の上着を投げ捨てた。
上がタンクトップになった魁は
臆することなく、喧嘩の渦中に向かって歩いていく。

「頭冷やせ、馬鹿が」



完全にキレていた。