章・過去が眠る楽都市で踊り狂え

05.賞味期限切れの恐怖の大王


 


「おぉっと、意外や意外。魁参戦です!」
「ちょっと!止めましょうよ!魁君が入っても一秒でミンチですよ!」
「解説がひどいことゆうとる」
「大丈夫やって。魁はな、あのエン様とずっと一緒に暮らしてきてんで?」
「エン様の戦いを間近に見てきた魁。今破壊神をとめる救世主となるか!」
「いやいやいや!何言ってんですか!」
悠が慌てて立ち上がり、結界を解く。
すぐさまメスが飛んでくる。
ぎゃーと盾組が叫ぶのは無視。

魁はすでに目に力が入っていた。

集まるマギナ
昂まるマギナ

流麗な陣ができあがり、青い光を発する。

一方、悠もマギナで陣を編む。
家主を傷付けないように―雅人は別にいい―細心の注意を払う。
入れ替わり立ち代わり戦うところにマギナを介入させるのは危険だが、そんなこといってられない。
悠と魁が同時に解放した。

『開・馬鹿排除』
『開・束縛』

冷光と荒ぶる風の二つが雅人達を縛ろうと襲いかかったが、

『開・結封』

雅人が放ったマギナー結界ーが朱金を守った。
「はっ!」

「もう、やめろって!」
しかし雅人は木片を投げ返すだけだ。

悠は魁を見る―直立不動。
いや、ゆったりと結界に歩み寄った。
ブツブツと唇は言霊をつむいる。
ぞわり―
そこに何か不吉なものを感じた。
マギナがまるで魁を支持するようにうねり、歪み、一気に空気の重みが増す―
「魁、君?」
呼び掛けに魁は視線を悠に移した。
その顔は、満面の笑顔。
但し、後光ではなく暗黒オーラ。

もう、キテる。
そこには流血沙汰を望むものがあった。


そっと魁が結界に触れる。
と。

結界は音もなく消えうせた。

「いっっ!?」
「っち」
「・・・!」
雅人、エン、悠がそれぞれの反応を返すうちに、魁の・・・灰色に揺らめく陣ができあがりーーーー


魁が口を−−−−


後ろから燐がそんなことも知らずに魁の腕をとった。
「魁、何してるの?危ないよ」
「燐は後ろにいて。あいつらぶっ飛ばす」

魁は燐の腕を振りほどいた。
「魁?」
そのまま陣を開放しようとする魁に対して燐は、
「止めなさい!」
巨大ハリセンを魁の頭に叩き付けた。
巨大ハリセンはその大きさに似合う質量を持っていた。
正しいハリセンの叩き方でなかったのが、魁が昏倒しなかった理由だ。
「な、何するんだよ!?」
物理的、精神的ダメージでHPが残り少ない魁は半泣きだった。
不気味な陣はすでに霧散している。
燐はハリセンを右手、左手に魁の手を掴み、奥へと進んでいく。
「いいから、付いてくる!」
「放してよ、燐!あいつらをぶん殴らないと!」
燐はむずがる子供を引きずっていく母親のごとき威勢を持っていた。
「そんなことしたってしょうがないでしょ!」
ちゃっちゃっと歩く!
「い、いやだぁ!絶対、あいつらに仕返ししてやる!!」
「敵うわけないでしょ!」
がーーーん!!!!!
打ちしおれた魁を燐は引きずって・・・・・
そして二人は退場した。

「えー魁、燐おっかさんによる退場〜」
「燐ちゃん強ー」
彼等はというと、
「待合室から診察室への廊下なのでありまして、我等は待合室のドアから草葉の陰からのごとくそっと覗いております」
「草葉の陰からって、ワイら死んどんのかい」
「あんな尋常やないとこに逆ベクトル、常人のワイらがいったらそれこそが一秒でミンチ★ですよ」
「尋常(じんじょう)と常人(じょうじん)を逆ベクトルでかけてるん…?」
「…やっぱ無理あるか」
「無理ちゃうか?」
ふむ。
「……………何してんですか、あんた達は」
悠がドアの前で不審げに見た。
「「尊敬レベルが『あなた達』から下がったー!!!」」
がーん!!



悠は何も単につったっているわけではない。
着々と陣を練っていたのだ。

『開・絶対無音・判決、両成敗』
ズン―

見るも無惨な廊下一帯から音が消えた。
雅人がマギナを放とうとするが声による発動ができない。
そして、その隙をついてエンがすかさず三つのメスを飛ばし、後ろに大きく跳ねた。
『にげんのか!』
口の動きでそう、そう分かる。
だが、エンはニヤッと笑った。
『ばーか』
エンの方向に足を向け、力を込めた瞬間―

―ズン―

空気が―いや重圧がさっきまで二人が居た―そしていまは雅人がいるところにかかった。
重力の何倍もの力は雅人を床に押し付ける。
ミシッと木の床が円形にめり込み―さらに雅人のいる部分が耐えきれずに軽い音が弾けた。
悲鳴はあがらない。
悲鳴もなにも音が許されていないので聞こえるわけがない。
楽々、重力加圧の場から逃れたエンは雅人を見て、鼻で笑った。

「…………………」
図らずも、エンの助けになった形の悠は少しやりきれないようだったが、
すぐに雅人を捕縛するため、
『開・金剛なる楔』
自らの中で一番強固な封縛陣を解放した。
ぎしっと微動すら許さぬ締め付けに雅人は目に怒りを燃やす。
「ウチの大馬鹿がすみませんでした」
ある意味手を出したのはエンの方なのだが、ここは穏便に、低姿勢でいく。
それにここは彼の家だ。
エンは腕を組み、おもむろに下を指差した。
悠の視線は床を―詳しく言えば、あたかもかなり重量のものが置かれたかのように周りよりも凹み、中心が人型にさらに凹んだ床を見た。
笑顔が凍る。
「いやこれは不可抗力じゃないでしょうか!」

エン様!
「お返しがいるよな?」
「いえいえ、お気遣いなく!」
ブンブンと音がなるほど首を横に振る。
エンは近付いてくる。
顔には凶悪な笑み。
「まぁ、受け取れ」
「問答無用ですか!?」