「「「「「婚約者ぁ!!?」」」」」
ぼろぼろの廊下を過ぎ、リビングでテーブルについた皆―エン以外が叫んだ。
二人―静流と雅人は苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「えっ!?今日って確かその婚約者とのお見合い……北條先輩が相手!?」
静流は頷いた。
「そうですわ」
「「お見合いー!!!?」」
サトルとカナメはお互いの顔を見合わせた。
「お見合いて…」
ばっとサトルは髪の毛を七三分けにし、
カナメは結んだ髪を解き、片手を淡く握って口許によせた。
「……御趣味は?」
やたらに低い声でサトルが聞くと、
「えっとぉ、料理とピアノを少々ぅ…」
カナメがくねくねと体を揺らして、裏声で答える。
「料理ですか…」
「はいぃ。肉じゃがが得意ですぅ」
サトルは頭の後ろに手を当てて乾いた笑いを起こす。
「あっはっはぁ!僕の大好物ですよ。こんな素敵な人に作って貰えたら、幸せだなぁ!」
「いやっだぁ。わたち、恥ずかしいん!」
くねくねくねくねん
そしてバンッと机を叩いて静流に危機迫る顔で叫んだ。
「…な、お見合いですか!!!」
「偏見甚だしいぞ、馬鹿弟子共」
つーか、キモい。
エンはすかさず巨大ハリセンで二人の頭を叩き、ノックアウト。
かなり引いている静流に魁は優しく言った。
「気にしないで。単に頭がおかしいだけだから」
ひどいんじゃなくって!?
叫ぶ二人にすでにすでに馴れた悠は黙り込んでいる雅人に詰め寄った。
「雅人、今日がお見合いだなんて聞いてないぞ」
「いってねぇもん」
言えるか。んなこと。
机に顎を乗せ、口を尖らせてブツブツ言う。
「こっちに居ることをお家の方には…すまん、お前が言ってる訳がないな」
さらりと雅人の人格否定を流し、少女の方を向く。
「…静流君も、こいつとのお見合いがいやでこっちに来たのかい?」
静流は頷いた。
くっくっく。
鳩の鳴き声が響く。
エンが笑っていた。
「良かったじゃねぇか。予定通り、お見合い完了だ」
「良くありません!」
「良くねぇ!こんなことがバレたら、これは運命だーとか言って無理矢理結婚させられるだろうが!」
「そうですわ!それだけは断固拒否です!」
変に息の合った二人にエンは腹を抱えて笑いこける。
その弟子達は首をしきりに振る。
「お見合い…」
「婚約者…」
「「カルチャーショックや」」
そんな世界もあんねんな。
「…家出だから、連絡しなかったんだね」
魁はそっと燐に尋ねた。
「うん。こっちも急な話だったから…ごめんね」
魁は肩をすくめた。
「別にいいよ。理由も納得したから」
そして雅人に話を向けた。
「で、これからどうするの?」
「俺はガーディアンの研修がある」
「私は帰る気はございません」
……。
魁は思考を巡らした。
「あのさ、やっぱり静流のお父さんって、静流を探してるよね」
「確実に」
燐が頷いた。
「かなり厳しい人なのよね。静流のルトベキアの入学にも最後の最後まで反対してたし」
あ。
と言った。
「誰かに、静流を見付けるのを依頼してるかも」
………天照とか。
魁は目を瞬かせた。
「それはないよ」
そしてすぐさま否定した。
「静流は天照に家出補助を依頼したなら、天照は静流探しの依頼は受けないよ」
「そうなの?」
「うん。対立する依頼があった場合は先に依頼した方を優先するから」
じゃないと、天照の中で対立がおこるだろ?
「早いもん勝ちっちゅうこっちゃ」
「天照に頼んだんは、ええ判断やわ」
称賛にやっと静流が微笑んだ。
魁は思考を巡らした。
……自分に来ている依頼について、だ。
依頼内容は、燐と静流の護衛、だ。
しかしその護衛の範囲はどのくらいなのだろう。
今までは単に遊都にいる間、かどわかされないようにする、と思っていた。
しかし仮に、静流の父親がそういう道の者に静流を探させているとしたら、自分はその追手からも彼女を守るべきなのだろうか。
……リリィに頼んで依頼確認してもらうか。
燐の母親は事情を知っている、と聞いた。
当面は普通の護衛に徹しよう。
「おい、紅いの」
エンは雅人に呼び掛けた。
「お前は相川娘と結婚する気はないんだな」
行儀悪く両足を机に乗せて、エンは尋ねた。
雅人は…沈黙した。
しかし、しっかりと頷く。
「嫁は自分で探す」
「相川娘は?」
静流は
「少なくとも、この方以外といたします」
ものすごい嫌われようだ。
その言葉をエンは鼻で笑うが、目を細めた。熟考するときのクセだ。そしておもむろに舌打ちした。
「なら話は簡単だ」
エンはエンらしく尊大且つ独善的に宣言した。
「改めて言おう。相川娘。お前がここにいる限り、お前自身の意思でない限り、お前が帰る必要はない」
俺は出来うる限りのことをしよう。
この言葉に、エンを昔から知っている三人は内心首を傾げた。
エン様にしてはあまりにも『他人』に肩入れしている。エンは自分の親しい知人や患者以外には基本的に不干渉なはずだ。
…エン様はやっぱり分からない。
ッ!
沈黙の中を音楽が鳴り響いた。
「僕です」
…誰だろう?
携帯にでると、
『…リリィであります』
「リリィ!?」
リリィ……。
その女性名に燐は素早く反応した。
ミミが言っていた年上の女性、だろうか。
こんな時間―九時か―に一体、何?
胸をジリジリと焼かれている気分だ。
魁は皆の目を気にしながら、応答している。
「え、あ。ごめん。今日は暇がなくって」
…何の暇?
「うん。今から取りに行くよ」
…何を?
そして魁は爆弾を落とした。
「もう九時かぁ…遅くなるなぁ…え、いいの?」
にっこりと、燐が好きな表情で、
「じゃ、今日も泊まらせてね」
ごめんね、いつも。
泊まッ………!?
泊まる!?
も、て、今日も、て、いつも!?
えええええ!?
い、いや!
落ち着け、私。
何も『リリィ』…さんが魁とそういう仲って訳じゃない…はず。
燐はあの廊下での言葉にいちるの望みを賭けた。
だって、言ってたし。
好きな人いないって。
お兄さんの遺言果たすまで、恋愛しないって。
でもでも、魁はその気でも『リリィ』さんは魁に…そ、その気があるってことも!
落ち着け、自分!
まったく落ち着いてない。
しかし、燐は繰り返した。
落ち着け、自分!
そ、そうよ。別に『リリィ』さんが、そ、その、若い人って決まったわけじゃないしね!
あーだこーだと思ううちに魁は話を終えたようだ。
「うん。じゃ、すぐ行くから」
ピッ。
電子音が会話の終りを告げた。
「リリィか」
「うん。荷物置きっぱなしだったから、心配したみたい。
今日はもう遅いから、リリィのとこに泊まるよ」
だから、もう行くね。
「おーよ。あぁ、リリィにちゃんと例の日を開けとくよう言っとけよ」
あいつは忙しいからな。
魁は返事として苦笑いを返した。
「えっと…みんなはどうするの?」
「んなもん、ここで解散だ。金にならねぇ奴、しかも男に俺の城に入る権利なんざ元々ねぇんだよ」
とっとと失せろや。
ぼろぼろの廊下を過ぎ、リビングでテーブルについた皆―エン以外が叫んだ。
二人―静流と雅人は苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「えっ!?今日って確かその婚約者とのお見合い……北條先輩が相手!?」
静流は頷いた。
「そうですわ」
「「お見合いー!!!?」」
サトルとカナメはお互いの顔を見合わせた。
「お見合いて…」
ばっとサトルは髪の毛を七三分けにし、
カナメは結んだ髪を解き、片手を淡く握って口許によせた。
「……御趣味は?」
やたらに低い声でサトルが聞くと、
「えっとぉ、料理とピアノを少々ぅ…」
カナメがくねくねと体を揺らして、裏声で答える。
「料理ですか…」
「はいぃ。肉じゃがが得意ですぅ」
サトルは頭の後ろに手を当てて乾いた笑いを起こす。
「あっはっはぁ!僕の大好物ですよ。こんな素敵な人に作って貰えたら、幸せだなぁ!」
「いやっだぁ。わたち、恥ずかしいん!」
くねくねくねくねん
そしてバンッと机を叩いて静流に危機迫る顔で叫んだ。
「…な、お見合いですか!!!」
「偏見甚だしいぞ、馬鹿弟子共」
つーか、キモい。
エンはすかさず巨大ハリセンで二人の頭を叩き、ノックアウト。
かなり引いている静流に魁は優しく言った。
「気にしないで。単に頭がおかしいだけだから」
ひどいんじゃなくって!?
叫ぶ二人にすでにすでに馴れた悠は黙り込んでいる雅人に詰め寄った。
「雅人、今日がお見合いだなんて聞いてないぞ」
「いってねぇもん」
言えるか。んなこと。
机に顎を乗せ、口を尖らせてブツブツ言う。
「こっちに居ることをお家の方には…すまん、お前が言ってる訳がないな」
さらりと雅人の人格否定を流し、少女の方を向く。
「…静流君も、こいつとのお見合いがいやでこっちに来たのかい?」
静流は頷いた。
くっくっく。
鳩の鳴き声が響く。
エンが笑っていた。
「良かったじゃねぇか。予定通り、お見合い完了だ」
「良くありません!」
「良くねぇ!こんなことがバレたら、これは運命だーとか言って無理矢理結婚させられるだろうが!」
「そうですわ!それだけは断固拒否です!」
変に息の合った二人にエンは腹を抱えて笑いこける。
その弟子達は首をしきりに振る。
「お見合い…」
「婚約者…」
「「カルチャーショックや」」
そんな世界もあんねんな。
「…家出だから、連絡しなかったんだね」
魁はそっと燐に尋ねた。
「うん。こっちも急な話だったから…ごめんね」
魁は肩をすくめた。
「別にいいよ。理由も納得したから」
そして雅人に話を向けた。
「で、これからどうするの?」
「俺はガーディアンの研修がある」
「私は帰る気はございません」
……。
魁は思考を巡らした。
「あのさ、やっぱり静流のお父さんって、静流を探してるよね」
「確実に」
燐が頷いた。
「かなり厳しい人なのよね。静流のルトベキアの入学にも最後の最後まで反対してたし」
あ。
と言った。
「誰かに、静流を見付けるのを依頼してるかも」
………天照とか。
魁は目を瞬かせた。
「それはないよ」
そしてすぐさま否定した。
「静流は天照に家出補助を依頼したなら、天照は静流探しの依頼は受けないよ」
「そうなの?」
「うん。対立する依頼があった場合は先に依頼した方を優先するから」
じゃないと、天照の中で対立がおこるだろ?
「早いもん勝ちっちゅうこっちゃ」
「天照に頼んだんは、ええ判断やわ」
称賛にやっと静流が微笑んだ。
魁は思考を巡らした。
……自分に来ている依頼について、だ。
依頼内容は、燐と静流の護衛、だ。
しかしその護衛の範囲はどのくらいなのだろう。
今までは単に遊都にいる間、かどわかされないようにする、と思っていた。
しかし仮に、静流の父親がそういう道の者に静流を探させているとしたら、自分はその追手からも彼女を守るべきなのだろうか。
……リリィに頼んで依頼確認してもらうか。
燐の母親は事情を知っている、と聞いた。
当面は普通の護衛に徹しよう。
「おい、紅いの」
エンは雅人に呼び掛けた。
「お前は相川娘と結婚する気はないんだな」
行儀悪く両足を机に乗せて、エンは尋ねた。
雅人は…沈黙した。
しかし、しっかりと頷く。
「嫁は自分で探す」
「相川娘は?」
静流は
「少なくとも、この方以外といたします」
ものすごい嫌われようだ。
その言葉をエンは鼻で笑うが、目を細めた。熟考するときのクセだ。そしておもむろに舌打ちした。
「なら話は簡単だ」
エンはエンらしく尊大且つ独善的に宣言した。
「改めて言おう。相川娘。お前がここにいる限り、お前自身の意思でない限り、お前が帰る必要はない」
俺は出来うる限りのことをしよう。
この言葉に、エンを昔から知っている三人は内心首を傾げた。
エン様にしてはあまりにも『他人』に肩入れしている。エンは自分の親しい知人や患者以外には基本的に不干渉なはずだ。
…エン様はやっぱり分からない。
ッ!
沈黙の中を音楽が鳴り響いた。
「僕です」
…誰だろう?
携帯にでると、
『…リリィであります』
「リリィ!?」
リリィ……。
その女性名に燐は素早く反応した。
ミミが言っていた年上の女性、だろうか。
こんな時間―九時か―に一体、何?
胸をジリジリと焼かれている気分だ。
魁は皆の目を気にしながら、応答している。
「え、あ。ごめん。今日は暇がなくって」
…何の暇?
「うん。今から取りに行くよ」
…何を?
そして魁は爆弾を落とした。
「もう九時かぁ…遅くなるなぁ…え、いいの?」
にっこりと、燐が好きな表情で、
「じゃ、今日も泊まらせてね」
ごめんね、いつも。
泊まッ………!?
泊まる!?
も、て、今日も、て、いつも!?
えええええ!?
い、いや!
落ち着け、私。
何も『リリィ』…さんが魁とそういう仲って訳じゃない…はず。
燐はあの廊下での言葉にいちるの望みを賭けた。
だって、言ってたし。
好きな人いないって。
お兄さんの遺言果たすまで、恋愛しないって。
でもでも、魁はその気でも『リリィ』さんは魁に…そ、その気があるってことも!
落ち着け、自分!
まったく落ち着いてない。
しかし、燐は繰り返した。
落ち着け、自分!
そ、そうよ。別に『リリィ』さんが、そ、その、若い人って決まったわけじゃないしね!
あーだこーだと思ううちに魁は話を終えたようだ。
「うん。じゃ、すぐ行くから」
ピッ。
電子音が会話の終りを告げた。
「リリィか」
「うん。荷物置きっぱなしだったから、心配したみたい。
今日はもう遅いから、リリィのとこに泊まるよ」
だから、もう行くね。
「おーよ。あぁ、リリィにちゃんと例の日を開けとくよう言っとけよ」
あいつは忙しいからな。
魁は返事として苦笑いを返した。
「えっと…みんなはどうするの?」
「んなもん、ここで解散だ。金にならねぇ奴、しかも男に俺の城に入る権利なんざ元々ねぇんだよ」
とっとと失せろや。