章・過去が眠る楽都市で踊り狂え

06.萌え萌ゆる企業


 
「只今もっどりました!」
カナメはすぐにうちわをとって冷をとった。
「あっちぃ〜」
「あれ、研修生は?」
「後からでっす」
と後ろを見ると―
「かぁなぁめぇ!!」
人に全部押し付けてんじゃねぇ!
ずるずると嫌がる暴れるジャンキー達、総勢7人を連行している雅人の姿があった。
「はっはぁ。楽チン楽チン!」
「くっ殴る!」
盾の中に入り、ジャンキー達を手近な人間に押し付けた雅人はカナメに殴りかかった。
カナメは熱さで少々へばった雅人の拳を軽々避けつつからかう。
「マギナ使いを酷使できるなんて快感ですよ!」
「待てこら!!」
「まてまて」
押し付けられた女性は雅人の足をひっかけた。
こけそうになるのをぐっとこらえる。
「何しやがっ!」
ハリセンが雅人を襲った。
ハリセンを担ぎなおした女性は、ジャンキー達の綱を雅人に押し付けた。
「仕事は最後までちゃんとするもんだずぇい」
よ、久しぶり。
親しげに手をあげた。
雅人の顔が引き釣った。
震える指で指す。
「早乙女・蘭!!!」
………先輩!
「敬称が遅いんでないかい?」
蘭は再びハリセンを振るった。


「あーやっぱりお知り合いですか。」
「ルトベキア史上最悪の愉快犯だ!!」
ようは騒ぎを起こしまくっていたらしい。
ヘッドロックされている雅人にカナメは敬礼した。
ヘッドロックしている蘭は眠た気な目を少し綻ばせた。
「おぅよぅ。可愛い後輩さ」
くふふ
雅人は蘭の腕から逃れ、後ずさる。
「中央本部にいったんじゃ!」
「いやぁ、上の連中とそりが合わなくてねぇ。暴れたら左遷されちまったずぇい」
若気の至りってやつさぁ。
蘭はカナメから書類を受け取った。
「いまでは、ジャンキー共をひーひー泣かせまくって、給料泥棒ってんの」
取り調べ、引き継ぐよ。
蘭はちらりとあたりを見回して続けた。
「サトルがこねぇうちに隔離しねぇとねぃ」
「すみませんねぃ。気を使わせてい」
口真似をするカナメの頭をハリセンで軽く叩いた。
「馬鹿だねぃ。あんたもさ。気にすること無いぜぃ」
少し悲しさに揺れた瞳。
蘭はそれ軽く軽く軽く笑う。
強力な綱を引く。
「さぁ屑共、いろいろげろってもらうぜぃ」
男の尻を蹴りとばし、奥の取り調べ室に向かう。
あぁ。
蘭は振り返り、雅人を手招きした。
「カナメ、雅人を借りるよぅ。いい経験だろ」
雅人は嫌だと答え、
カナメは承諾した。




受付嬢―リリィはDoll。
これほどまで、人間に近いDollを初めて見た。
目に力がある。
どんなに精密、精巧な絵でもDollでも目を見れば人間でないとわかる。
いやむしろ写実に忠実に作られたほうが目の力がないことがわかる。
大昔の画家の絵の方がよっぽど力があり、人間の強さ 本質があるというものだ。
しかし、リリィは・・・・どう見ても人間にしか見えない。
先ほど見たものが信じられない。
しかし同時に納得した。
なるほど。
Dollならば買収や秘密漏洩―人間なら起こりうる危険性がほとんどなくなる。
つまり、悠にはまったく情報が得られないと決まった、ということだ。
リリィはすぐに手袋をはめなおした。
「……もう、よろしいでしょうか?」
それはあまりに一方通行な質問の打ち切りを意味していた。
「先ほどは非礼なことをいってすみませんでした。……最後に聞かせてもらえますか。…いえ、言わせてください」
リリィは無言で答えた。
悠は泣きたくなる。
届かない。
そのことをつきつけられた気がした。
「英雄は……」
一体、どこに……
しっとりと、そう伝えようとした言葉はファンファーレで打ち消された。
リリィは即座に立ち上がり―その手でフロンティアサイトの受付を自動モードに切り替える。
顔から作った笑顔が消え、彼女本来の表情が―どこか無愛想な雰囲気が浮かび上がった。
「…悠様。何故その2、天照が英雄探しをなさらない理由を語れうる方がいらっしゃいました」
入り口から声がした。
「か、会長達が戻られたゾ!!」
リリィはまっすぐ悠を見つめた。
至極真面目に言った。
「半径10m以上離れての御質問を推奨致します」
「ここにいれませんよ!」
極々最近になってツッコミが特化してきたなと、頭の隅から呟きが聴こえた。

玄関がばっと開かれ、赤い絨毯が受付のところまでのびる。
そこをがっしりとした体つきの初老に差し掛かった男、そしてその右隣には青年、左には女性が颯爽と歩いてくる。
取り巻き―ガードマンなどはついていなかった。
丁度道のりの半分まできたロビーで会長、榊原劾は立ち止まった。
合わせて彼の子供達も止まる。

厳然たる空気のなか、切り裂くように劾が手を宙に大きく広げる。
吹き抜けの空間に、声が大きく広がる。

「緊急にここにいる全てのエージェントを集めろ……!!」

深い包容力を兼ね備えるその立たずまいはまさに、時代を生きた男そのもの。
悠は―息を飲んだ。
一体何が起ころうとしているのか!
劾は続けていった。
握り拳を掲げる。





「今からリリィの夏服・・・【リリィの制服で世界制服】企画の決戦投票を行う!」




一瞬静まりかえり―
ぅうおぉぉぉぉおおお!!!!
建物全体をまさに文字通り揺り動かす歓声が沸き起こった。


「い、いきなり萌えネタですか!!!」
悠のツッコミはかききえた。