章・過去が眠る楽都市で踊り狂え

06.萌え萌ゆる企業


 集計終りました!
【リリィの制服で世界征服】企画の夏服はぁ〜』
どこからともなくの細かく叩かれた太鼓の音がその場に響き、
最後にシメの音が響いた!


『和泉さまの【不思議の国のリリィ】に決定されましたぁ!!』
うぉぉぉおおおおおおおおお!!

『ふっ。当然ね。みんな!来週から、ウサリリィで行くわよ!!』
一生、付いていきます!!!

『それじゃ、各自仕事に戻れ!!』
ははぁ!!!



次の瞬間に悠が入ってきたのと同じ状態に戻っていた。
思わず、白昼の悪夢かと疑ってしまうほどの正常だ。
……いや、正常な異常か。
客にも投票権があったために参加させられた悠は日常に早く帰りたかった。
雅人の頭の一つでも叩いたら調子が戻るだろう。
悪夢でない証拠に榊原一家がそこに立っていた。
和泉がリリィに飛び付く。
「リリィ、やったで!ウチの服着てな!」
「はい。喜んで」
二人は抱き合い、跳ねるが一方は笑顔、一方は無愛想と少し奇妙な光景だった。
「ってリリィ。お客さん待たせたらいけないわよ」
すぐさま客用に標準語に直した和泉は悠に向かって微笑んだ。
「初めまして、榊原・和泉です」
「こちらこそ初めまして、相良・悠です」
「和泉様、こちらの方は会長にご質問がある方です」
和泉は片眉をあげた。
「会長……馬鹿父に?」
「言い直すのは逆の場合のみと推奨いたします」
「リリィ、会長は忙しいのよ。一々お客様の質問を受けてたら大変じゃない」
和泉は悠を見た。
キラキラと目を輝かせて、
「さぁ!会長をまさに忙殺して」
「……はぁ。」
濃いなぁ……


「会長、お客様です」
悪魔リリィが破れ、悲しみに打ちひしがれていた劾にリリィは無表情で告げた。
「ぁ。なんか予定有った?」
「いえ、リリィが入れました」
「なら、良し」
いいんだ。
悠は心ツッコミをした。
リリィが一番権力持っていないか、ここ?
「榊原・劾だ」
悠は差し出された手を握った。
「お目にかかれて光栄です」
相良・悠です。
「で、早速で悪いが一体【英雄の再来】がなんのようなんだな?」
だったよな?
自分の通り名を知っていることに驚いたが、
悠はそれを表には出さずに
短刀直入に聞いた。
「英雄の居場所を知っていますか」
劾はその質問を予想していたのか―口端を上に歪めた。
「それを知ってどうする。表舞台から消えた奴を無理矢理ひっぱり出す気か?」
「――ただ、話をしたいだけです」
「英雄の後継者のガキのことを?」
内心、舌打ちした。どこまでしっているのだ。
あの映像のせいで有名になりすぎている。
何もかも、見透かされている気分だ。
一拍置いて
「えぇ、はい」
悠は正直に答えた。
この男との経験の差はどうしても埋まらない。
なら、正々堂々と立ち向かうしかない。
「………知らない」
劾は言った。
「英雄が今どこで生きているか、知らなんなぁ」
嘘はないように聞こえた。
「では……何故英雄探しを妨害するのですか」
劾は問掛けを持って答えた
「何故だと思う?」
「……貴方が英雄を匿っているから、ではありませんか?」


劾―そして和久と和泉―は

哂った。


「んなわけねぇだろ」
、と。


「英雄がここにいてくれたら、いいわねぇ」
「っではあの五年前の―郊外で起こった螺槙事件を解決したエージェントは英雄という噂ですが、どうですか?」
「違うね」
劾は即答し、
目を細めた。
「相良・悠。天照が何故英雄探しを妨害するか―それはそんなに難しい問題か?」
「は」
劾はにやにやと笑った。
「頭が固くなるにゃ若すぎるぜ」
いいか、
「天照は、依頼と金があれば―犯罪者だろうと悪魔だろうと天使だろうと、何だって引き受ける会社だってことだ。」

自分の愚かさに気がついた。

天照の陰謀?
そんなもの、最初からなかったのだ。

「……英雄が、依頼したんですか……」
劾は、その強い瞳で肯定した。
「そう、あれは六年前の〜ある晩に〜〜って痛っ和泉、殴るな。人が寝ているところに押し入ってきやがった。畜生、和葉の夢見てたのにって痛っ!やめろ、和久!っつたく話がすすまねぇ。
あぁすまんすまん。でな、あのガキ。
いきなり―依頼した。
僕を追ってくる者を妨害してくれってな」






忘れもしない。
馬鹿息子と似たような年のくせに
どこか人に一線を引いていて
笑っているくせに腹から笑ってねぇ馬鹿が
なんでも一人で背負おうとしていた馬鹿が
そこら辺にいるガキみたいに
泣きそうで
泣けない
必死で
必死に
頼ってきた。

あの馬鹿が。

人を―他でもない自分を信じ頼ってきた。
信頼して来た。


全てを投げ出して


そして、劾は笑い飛ばした。
歓喜を隠さず、

『当たり前だ。天照は依頼人には全てに公平だ』
依頼を受けてやらぁ。




「おい、少年。貴様に覚悟はあるか」
あの責任感の固まりみたいな奴が全てを投げうって隠れた。
あのお人よしが、皆の期待を裏切るその意味を。その重さを。
「それを暴き晒すだけの覚悟があるか」

テメエにゃ無理だ。
そう突きつけられた気がした。



和久は少年―悠がまた来ると告げて帰ったのを見、
周りに聞いている人がいないのを見て、自分の父親に言った。
「嘘吐き」
「嘘吐き」
和泉も続けた。
リリィは一人首を傾げた。
「嘘は付いておられませんが?」
「知ってるだろ。神さんの・・・いるところ」
「知らないね。奴が生きているところなんか」

もう、死んでいるのだから。

劾は嘘は言っていない。

確かに、螺槙事件の担当は神だった。
だが、悠は郊外で起きた螺槙事件、と聞いたのだ。

「郊外で暴れたのはチビで、神は中央で俺の護衛だったろ?」

そもそも螺槙事件とはガーディアン局長が天照の会長の暗殺を螺槙に依頼したものだ。
だから神は劾の側―中央にいた。
そう、郊外で起きたとき、その事件を解決したのは魁だ。
そのときを思い出してリリィは微笑んだ。
人形からリリィになった―リリィにとってまさに転機であったあの時。
初めて魁に逢えた。


「チビはまだうちのエージェントじゃなかった。そんなエージェントは知らないねー」
真実ではないが嘘ではない。
「わしぁ、正直だかんなー!!」
がっはっは!!
「会長」
リリィが水を差した。
「野球球団タイガーズ復活プロジェト会議が後三十秒で始まります」
「さっきにいってくれると嬉しいんだな!!」
ぎゃー!!!