章・過去が眠る楽都市で踊り狂え

07.馬鹿親大騒動


 
ぶぅぅん―


テレビに電源がつき、
何も映さない

燐は首を傾げた。
何も映ってな――

『ごるぁぁぁぁぁぁぁ!!
何さらしとんじゃこのド阿呆!
何しくさっとんじゃこの女男!
何おんなじこと叫んどんじゃワータークーシーはー!!!』
最大音量の奇声が部屋を揺るがした。
一瞬女性がブレ―映り―
ブチンと消えた。
振り向くと耳を押さえたエンがリモコンを握っている。
そして、皆が呆然といているなか、

「ぽちっとな」

テレビの中では着崩れした女性が肩で息をしていた。
あ。
「淳子さん!?」
「はいーそうでーす!なんでツインテ燐様がここにー!?
ってえーー!眼鏡ッ子静流様と英雄再来ズの方々ー!?
えっ何この組み合わせ?
わたくしが強制封印されてる間に天変地異!?」
どこかにカメラがあるのだろうか?次々に名をあげていく。
「あ!魁おぼっちゃま!ひどいです!
淳子も一緒に働かせてくださいなのん!
まぁリリィちゃん!おひさー!って聴覚切ってるしね!この娘!」
リリィは口の動きを見て頭を下げた。
聴覚は元に戻す。
「お久しぶりです。……淳子様」
「えーと何?再来ズは盾遊都支部局に研修!!
またヘンピなとこに!巽ちゃんによろ!!
ん?何?わたくしが寝てる間になんで拳銃沙汰になってるの!?
ちょい大丈夫、家!?」
心配は家なんだ。
悠の頭に―もう無意識の域に達している―よぎり、息を飲んだ。
この人は一体。
混乱しているように見せかけ、この短時間でありとあらゆる情報を言っている。
『あらあらあら、静流ちゃん、雅人君とお見合い!?ここで!?
仲人わたくしがしていーい?御趣味は…情報収集ですぅ!
いいなぁ!若いって!魁くゅんツッコミして!』
「淳子さん絶好調!」
『ツッコミ違いますぅ、それ!
あぁ、家出か!ここであっちゃうなんて奇妙な巡り合わせね!
でも親同士―父親同士だけで形式的なお見合いはすませたみたい、残念!
解消するのは難しいと思うわよ!』
目を見張る。
淳子のマシンガントークは終らない。
『静流パパは雅都ね、雅人パパと一緒にいるけど朝一の技都入りの申請しているわ。
後、もう静流ちゃん、帰っちゃうの?静流ちゃんの技都入り申請もしてるわ』
「いや、帰る気はないみたいだぜ、本人は」
『そう?妨害しとく?』
さらりと恐ろしいことを言う。
「……いや、まだいい」
淳子はコロコロと笑った。
『はーい。
あっはー!すごいわね。【農場】頑張って守ってね、再来ズさん達!
敵ははぐれマギナ使いでできた組織――よ!!』
度肝をぬかれる。
仕事を知られていることではない。
こちらはどこの組織かも分かってないのだ!
皆のその顔に満足したのか、淳子は徐々にテンションが普通になっていく。
『あ、そうそうわたくしの連絡先をメールで皆に知らせとくわね』
燐、静流、雅人、悠の携帯が一斉に鳴る。
こちらのアドレスを一体、どこで、どうやって手にいれた?
『気にしなーい♪あぁみんな、傘と武器を忘れないでね』
今から雨がふるわよん♪
淳子はにっこりと最後に言った。
『んふーふー♪十分前に静流ちゃんの護衛の禿げ中畑秀生君(35)達がホテルを出てるわぁ』
そろそろ来るんじゃない?
たった三分足らずで全てを知り、握った女性は付け加えた。
ウインクひとつ★
『静流ちゃんを取り返しに』
外で破砕音が響いた。

一番早く動いたのは魁―そして後にリリィが付きそう。
魁は燐の手を掴み窓から遠ざけた。
「燐はここで静流といて」
すでに【杖】は光をおびていた。その色は―白。
「先輩たちは裏口に!」
そのまま表に走っていった。
「大丈夫か?!」
悠は叫んだ。
それに答えたのは振り返ったリリィ。
「愚問であります。リリィがいる限り絶対無敵完全防御であります」
Dollと知っている悠はうなずいた。
「雅人、行くぞ!」
「おうよ!!」
裏へ回った。
エンは舌打ちし、苛立った口調で淳子―狐と呼んでいる青年―に文句をつけた。
「先に言え!」
『だってついさっきわかったんですもの〜』
そんなはずはない。
わざわざ順序だててぺらぺら喋っていたが、そもそも一つ一つ調べる必要がない。
あの電源が入り―目覚めさせ、
画面に映る一瞬で『虹髪の男』ではなく『淳子』を選択できる奴なのだ。
電源を消したその一瞬、それだけ言った全ての情報を得るには十分。
すぐに言わなかったのは強制封印したエンへの嫌がらせ。
年上のこの男は何よりもそれを優先する!
その陰湿でささやかな復讐に舌打ちした。
エンは黒衣を翻した。
守るべき城を侵す馬鹿共を追い出すために。
振り向きざまに吐き捨てる。
女の姿をした、気の置けない男に。
「覚えてろ」
『忘れるわ』
バイバイ。
淳子は手を振るった。