章・語らぬは己がの強さか弱さか

05.終末の月夜


 


生きることが
苦しくて

生きることが
つらくて

そんなとき、

貴方は星になったと彼奴は言う

空を見上げたあの頃

貴方はきっと俺を見守っていてくれている

奇妙な確信

でも

俺はどの星が貴方か分からないんだ。

貴方は見れて

俺は見れない

なんて一方通行な視線

もう、交わらない視線


あぁ、これが死なのだ。

貴方にもう会えないと
やっと納得したあの朝焼け

そして俺は泣くのを…



 魁は、目を見開いた。

 頭が重い。
 傷付いたのは背中なのにおかしなことだ。
 頭を押さえようと右手を上げようとして、気が付いた。
 横にツインテールの少女が、手を握り締めていた。途中で眠ってしまったのか、冷たい床に座った格好で頭をベットに預けていた。
 ……大丈夫、なのか?
 とっさにかばったものの、頭をそのまま床に叩き付けてしまったのだ。
 そっと左手で頭を撫でた。
 猫毛なのかふわふわとして、触っていて気持ちがいい。もったいない気もしたが手を頭から肩に置いた。
「燐、起きて」
 風邪ひくよ?
 何かもごもごと言ったが眠り姫は目を覚まさない。
 俺であったら決して言えない様な優しい音色でもう一度囁いた。
 今は僕だから。
「燐、起きて」
「 ん。ぁあ…?」
 焦点が定まっていない。本当に目を覚まさせるのは可哀想だった。
「燐、隣のベットに入りなよ。このままだったら明日がつらくなるよ?」
 燐は目を擦って欠伸をした。
「……だめ。魁の側にいないと…」
 魁が苦しんでる。
 その言葉に魁は目を丸くした。
……苦しんでる?僕が?
 ふと、他の場所の体温と遥かに違う温かな右手を見た。
 もしかして、俺から握った?


 ぐぁ、くそ恥ずかしい。
 憤死しそうな勢いだ。
 繋がれた燐の手を見た。
 ……血だ。
 燐の、剣を握るのにふさわしいしっかりした、されど柔らかな手に、丁度誰かに強く握り締められ、残った痕。
 ……どう考えても、僕かぁぁぁ。
 傷付けまいとした少女を自分が傷付けてどうするよ?
 自己嫌悪に陥りそうだ。そうこうしている間に燐はまた眠りこんでいた。
 いたなら見てないよね。魁はマギナを展開。
 燐の手を癒した。
「りーんー。起きて」
 背中がほとんど完治しているのを確認した魁は体を起こし、燐の肩を揺さぶった。
「……魁?」
 完全に目を覚ましたのか、声がはっきりしていた。
「魁!?だだだだ大丈夫!?」
 燐、落ち着いて。
 大丈夫だよ。
 そう聞くと、燐はへにょっと目尻を下げ、ベットに突っ伏した。
 よかったぁ。
 微かな声。
 でもそれには本当の安堵が詰まっていた。
 魁は優しい微笑みで応えた。
「燐は?大丈夫?」
「魁がかばってくれたから、平気。CTで一応調べたけど、異常なし。」
 私、頭、固いんだよ。
 僕も。
 二人は顔を見合わせて、吹き出した。

 不思議だ。
 喧嘩して、一週間以上話してないなんて嘘の様。
 二人は自然に、今まで話せなかったことを話しあった。
 たわいのない中身。
 重要なのは中身じゃなくて、話しているという今。
 穏やかな時間が夜の調べと共に流れた。

 ふと、会話が途切れた。

 燐は一度うつ向いて、顔をあげる。
 秘めたるは、決意。
「か、魁。言いたいことがあるの」
 思い出すのは、親友の言葉。
《謝ったら、快く許してくれました》
 その言葉を信じたい。
 顔が赤くなるのが分かる。いざ言おうとするとどうも、気まずいものがあった。
 意を決して、
「ごめんね」
「ごめんなさってぇぇ!?」
 先に謝ったのは魁だった。
 あまりな結果に呆然としている燐に、魁は畳み掛けるように続けた。
「ごめん、ごめんなさい。僕のせいで嫌な思いさせちゃって……」
 燐はただ、心配してくれただけなのに。
 だから、ごめんなさい。

 ……許してくれる?
 おずおずと魁は上目使いで燐を見た。
 燐はというと、
「 ふぇ?」
 顔を芯まで赤く染め、あまりにも情けない顔をしていた。
 そこには、いつもの凛とした、頼りがいのある彼女ではなく。
 泣きだす寸前の小さな子供ようで。
 魁は思わず笑ってしまった。
 二人以外誰もいない保健室に響き、
 燐の慌てた声が後に続いた。