生きることが
苦しくて
生きることが
つらくて
そんなとき、
貴方は星になったと彼奴は言う
空を見上げたあの頃
貴方はきっと俺を見守っていてくれている
奇妙な確信
でも
俺はどの星が貴方か分からないんだ。
貴方は見れて
俺は見れない
なんて一方通行な視線
もう、交わらない視線
あぁ、これが死なのだ。
貴方にもう会えないと
やっと納得したあの朝焼け
そして俺は泣くのを…
魁は、目を見開いた。
頭が重い。
傷付いたのは背中なのにおかしなことだ。
頭を押さえようと右手を上げようとして、気が付いた。
横にツインテールの少女が、手を握り締めていた。途中で眠ってしまったのか、冷たい床に座った格好で頭をベットに預けていた。
……大丈夫、なのか?
とっさにかばったものの、頭をそのまま床に叩き付けてしまったのだ。
そっと左手で頭を撫でた。
猫毛なのかふわふわとして、触っていて気持ちがいい。もったいない気もしたが手を頭から肩に置いた。
「燐、起きて」
風邪ひくよ?
何かもごもごと言ったが眠り姫は目を覚まさない。
俺であったら決して言えない様な優しい音色でもう一度囁いた。
今は僕だから。
「燐、起きて」
「 ん。ぁあ…?」
焦点が定まっていない。本当に目を覚まさせるのは可哀想だった。
「燐、隣のベットに入りなよ。このままだったら明日がつらくなるよ?」
燐は目を擦って欠伸をした。
「……だめ。魁の側にいないと…」
魁が苦しんでる。
その言葉に魁は目を丸くした。
……苦しんでる?僕が?
ふと、他の場所の体温と遥かに違う温かな右手を見た。
もしかして、俺から握った?
ぐぁ、くそ恥ずかしい。
憤死しそうな勢いだ。
繋がれた燐の手を見た。
……血だ。
燐の、剣を握るのにふさわしいしっかりした、されど柔らかな手に、丁度誰かに強く握り締められ、残った痕。
……どう考えても、僕かぁぁぁ。
傷付けまいとした少女を自分が傷付けてどうするよ?
自己嫌悪に陥りそうだ。そうこうしている間に燐はまた眠りこんでいた。
いたなら見てないよね。魁はマギナを展開。
燐の手を癒した。
「りーんー。起きて」
背中がほとんど完治しているのを確認した魁は体を起こし、燐の肩を揺さぶった。
「……魁?」
完全に目を覚ましたのか、声がはっきりしていた。
「魁!?だだだだ大丈夫!?」
燐、落ち着いて。
大丈夫だよ。
そう聞くと、燐はへにょっと目尻を下げ、ベットに突っ伏した。
よかったぁ。
微かな声。
でもそれには本当の安堵が詰まっていた。
魁は優しい微笑みで応えた。
「燐は?大丈夫?」
「魁がかばってくれたから、平気。CTで一応調べたけど、異常なし。」
私、頭、固いんだよ。
僕も。
二人は顔を見合わせて、吹き出した。
不思議だ。
喧嘩して、一週間以上話してないなんて嘘の様。
二人は自然に、今まで話せなかったことを話しあった。
たわいのない中身。
重要なのは中身じゃなくて、話しているという今。
穏やかな時間が夜の調べと共に流れた。
ふと、会話が途切れた。
燐は一度うつ向いて、顔をあげる。
秘めたるは、決意。
「か、魁。言いたいことがあるの」
思い出すのは、親友の言葉。
《謝ったら、快く許してくれました》
その言葉を信じたい。
顔が赤くなるのが分かる。いざ言おうとするとどうも、気まずいものがあった。
意を決して、
「ごめんね」
「ごめんなさってぇぇ!?」
先に謝ったのは魁だった。
あまりな結果に呆然としている燐に、魁は畳み掛けるように続けた。
「ごめん、ごめんなさい。僕のせいで嫌な思いさせちゃって……」
燐はただ、心配してくれただけなのに。
だから、ごめんなさい。
……許してくれる?
おずおずと魁は上目使いで燐を見た。
燐はというと、
「 ふぇ?」
顔を芯まで赤く染め、あまりにも情けない顔をしていた。
そこには、いつもの凛とした、頼りがいのある彼女ではなく。
泣きだす寸前の小さな子供ようで。
魁は思わず笑ってしまった。
二人以外誰もいない保健室に響き、
燐の慌てた声が後に続いた。