章・過去が眠る楽都市で踊り狂え

02.飛んで火に入る夏のムシ



 一番列車が到着し、人が疎らに降りてきた。列車代は高い。人よりも物資を運ぶのが列車の主な仕事だ。
「うお、ボロい都市だ」
 長身の男二人組が今、遊都の駅に立った。
「それをいうなら、京都のほうが古いだろ」
「京都は、ボロいんじゃなくて風情があるんだよ!」
「お前の口から風情とか聞く日が来るなんて……」
気持悪い。
 人一倍がっしりした体躯の青年は人工的に紅く染められた目を半目にした。並の人間ならその時点で腰が抜けるだろう。
「喧嘩うってんのか、こら」
「ここで暴れるな」
 軽くいなした中肉中背の青年は片手に切符を持って駅の改札に向かった。その後を紅い青年が追う。きょろきょろと辺りを見回しながら、煩く広告を批評している。それを聞き流しながら青年は胸からぶら下げているパスポートをだそうとして手を止めた。
「あぁ、ここは入都許可証はいらないのか」
「なんか、やばくないか。よくそれで都市が保っていられるな。」
 入都許可証とは、都市に無頼者を入れないための予防策である。普通の都市の周りには関門が巡らされており、都市に入る人間をチェックするのだ。ただ、遊都には関門がない。自由に色々な人間が出入りできる。
 そのことで人々が都市に来やすくなり、商業が活発になる一方で闇のブローカーなど犯罪者がたむろする結果となっている。
「だが、ここはあの賞金稼ぎ時代から天照のお膝元だからな」
睨みを効かせているんだろ。
「ふーん」
 すでに興味を無くしたのか、切符のみを取り出している。
「あ。ってことは、ここに逃げ込んでも、記録に残らねぇってことか」
気付くの遅い。
 悠は微苦笑した。その表情に雅人は口をとがらした。
「だって言われてねぇし」
 元々、少々ごねて無理矢理付いてきたのだ。その相棒の顔は真剣の輝きを魅せた。
「そう、だからこそ」
 荷物を抱えなおした。
 それは意気込みの現れだ。
「だからこそ、先輩が、英雄がいるかもしれない」

 英雄を捜す。
 そう思ったのは英雄がいなくなったとき、しかし子供が雇えるような情報屋では手掛りすら掴めなかった。だが、今なら――
 触発されたのはあのリトル・エースがあの英雄の後継者として現れたことだ。真偽を確かめるために、英雄に直接聞かないと納得できない。
 「でもよ。わざわざ俺達で捜すより、双子に頼んだほうがよくねーか?」
「そんな暇ないって断られたよ」
双子達はあの時から部屋にこもっている。
いったい何をしているのか、誰も知らない。
「とりあえず、ガーディアン遊都支部局に顔を出すよ」
 相良 悠と北條 雅人は駅を出て遊都に入っていく。一番高くそびえ立つビルは彼等を迎え撃つように見下ろしていた。