章・過去が眠る楽都市で踊り狂え

04.嵐の前の一騒動


 
「ごちゃごちゃした都市だね」
「えぇ。やはり技都とは違いますね」
 名古屋はルトベキア学園都市と一番近いためか科学技術都市、技都として名をはせている。だからかもっと都市の壮観がすっきりしている。遊都は大通りをはずれると下町といった風情があった。
 それはともかく、二人は今重大な局面に立たされていた。
「公衆電話ないね」
「そうですねぇ」
 携帯で魁―なんとまだ連絡していない!―にことの次第を頼もうとしたら、静流に止められた。
『いけません!携帯でかけたら記録が残ります!』
 家出に荷担する以上、燐の携帯も監視されているはずだ。だから、公衆電話で魁と連絡をとろうと思っていたのだが…ない。
「なんでないのー?」
「困りましたわ」
 魁が遊都に住んでいることは知っているがどこに住んでいるかは知らない。
「……天照に依頼しましょうか?」
「やめなよ」
 こういうときは、ガーディアンに行った方がいい。
 燐は遊都の力関係を分かっていない。ガーディアンが一般企業よりも立場が弱い、なんてことは名古屋では考えれないのだ。だからこそ技都の常識を持ち出した。
「駅で場所を聞こう」


 それはとても麗しい少女達だった。
 駅を出て、辺りを見回した後、もう一度足早に駅に戻ってゆく。
 ……これはいい。
 遊都には初めてきたのだろう。
 でなければ女の子二人だけでここに来るはずがない。じっくりと見回したが、護衛のようなものは見当たらない。かもがねぎをしょってきたとはまさにこのことだ。男はほそくえんだ。
 駅の出入り口がはっきりと見える廃ビルのある一室。男は簡易望遠鏡から目を離し、携帯のリダイヤルを押した。


「大通りを道なりに進む」

 燐は書いてもらった地図を手に目的地、ガーディアン遊都支部局を目指した。
「歩いて十分ってとこね。そこで魁に迎えに来てもらおう」
「魁君、いらっしゃいますでしょうか…」
う。
 どこかに行っている、という可能性をすっかり忘れていた。
「で、でも。……静流。本当に成り行きまかせ過ぎよ」
 準備をしている静流と違い、自分は買い物ついでに来たのだ。フェンリルだって手元にない。お金だって残り少ない。着替もない。ないないずくしだ。
 まぁお金は『お母さんのへ・そ・く・り♪』と名付けられた母親の秘密預金から引き出すことを許されただけましか。魁に会ったら服屋を紹介してもらおう。
「きゃっ」
静流の悲鳴っ―
とっさに静流の腕を掴み、背中にかばう。
「誰!?」
睨み付けた先に、若い男が二人いた。同じ白い服をきた二十歳前後の青年達は、
「「お嬢さん」」
全く同じ動作で胸から白い薔薇を取り出して燐達に捧げた。
「「ちょっとそこまで一緒に行きませんか?」」
 笑みで口から覗く白い歯が煌めいた。

 ……………………っつ!!
立つ鳥肌に不愉快になりながらNOと言い切った。
「行きません!!!」
静流、行くよ!
 後ろを振り向くといつの間にか静流は白い薔薇を握っている。燐はその手から薔薇を奪い取り、青い空に力一杯ふりかぶって投げた。
「知らない人から受け取っちゃいけません!」
 三人は空に散った花をゆっくりと見届け呟いた。
「「「花に罪はないのに……」」」
なぜか、敬礼。静流も続く。
アディオース!
 ……静流、実は混乱してる?
 変に悪のりしている静流の手を引き、二人を無視して小走りに走り出す。二人組は慌てて声を張り上げるが、無視。
 そして燐は叫んだ。
「使い方に罪があるの!」

 二人組は……通りすぎた。燐達は脇道に入り、もの陰に隠れていた。
「もう大丈夫、ね」
「そうですか。ドキドキでしたね」
静流の反応にドキドキだわ。
嘆息した。
「助かったわね」
遊都って本当に危険な都市だわ。
「そうですねぇ。気を付けないと」
「静流、全然言葉と行動が一致してないわよ」
 静流はやんわりと笑うことで誤魔化した。
「そろそろでよっか。あいつらが戻ってくるかもしれないし」
 静流の手を引き、大通りにでようとし、

首筋に、悪感が走った。

 地面にはいつの間にか不自然な昏い影が―
静流っ
 叫ぶことも忘れて、腰に手を当てるが、頼もしい相棒―フェンリルの感触はない。
っ。
影は突如地面から浮かび上がる。静流を―燐を飲みこまんと襲いかかる。
っ。
燐は意識を拡散させる

マギナはある。陣を展開、燐の指輪―『杖』が紅く光る。いつも通りに力ある言葉を唱えた!

『開・切り裂くは闇よりの使者』

気の抜けた音が響く。淡い―煙のようにたゆたう光は闇を切り裂くどころか、吸収されてしまった。マギナがきちんと発動しなかったのだ。

なんで!?

「燐さん!」
静流が手を燐に伸ばす。しかし燐は、燐は混乱で気が付かなかった。頭をしめていたのは先ほどの失敗。燐にとってそれはほぼ初めてに等しい失敗だった。

いつも通りだ。
いつも通りだった!

なのになんで、マギナがあんなに、弱いの!?

 天を覆い被さった影は二人を飲み込んだ。

後は静かにゴミが走るだけ。